【書庫】銀×月【Long】

□『災いって言うものは何処からでも現れる。』
1ページ/1ページ

結婚……と言う物は、男女が契りを交わして結ばれる事を言うらしい。
周りから見れば、とても愛でたい事らしいのだが……。



「………。」



どうもわっちは喜ぶ気にはなれなかった。
目の前に飛び込んでくる現実は“結婚しました"の文字。
その男女は、知っている人物だった。


猿飛あやめ。
通称さっちゃん。
人気投票とかどうとかで、軽く関わった。
そして、その相手。



――坂田銀時。



わっちがよく知っている人物だった。





―壱―
『災いって言うものは何処からでも現れる。』








目の前に並べられる無数の葉書用紙。
晴太、日輪はその紙にすらすらと文字を書いて行く。



「母ちゃん。
げんきって感じどう書くんだっけ?」
「えっとね、こう書くんだよ。
“元気"。」



日輪は要らない紙に晴太のわからないと言われた字を書く。
わっちは無心になってひたすらペンを走らせた。



“明けましておめでとうございます"



果たして、わっちは何回この文字を書いたのだろう。
もう意識せずとも、自然と腕が動く。


「月詠姉、葉書は順調?」
「ん、まぁ、そうじゃな。」
「銀さん達には書いた?
銀さん達には去年お世話になったから、年賀状送らなくちゃ。」


晴太は葉書に筆を走らせる。
その内容は……。


“「銀さんが結婚するって聞いてから月詠姉元気な"」
「何書いとるんじゃァァァァ!!」


わっちは晴太から葉書を奪う。
この内容では、わっちがヤキモチ妬いているようではないか!
わっちは直ぐさまペンを晴太の書いた文章に走らせる。
何度も文章を消すように、何度も横線を引いた。



「何するんだよ、月詠姉!」
「たわけ、変なもの書くからじゃ。」


ぷいと、自分でも子供見たいだなと思いながら晴太から視線を逸らす。
横目に晴太が唇を尖らせたのが見えた。



「日輪は何を書いておるのじゃ?」
「え。」



日輪は慌てたように葉書を隠す。
それが確信に繋がり、わっちは日輪から葉書を奪い去った。



「“月詠が淋しがるわ、何てね(笑)"」



「何が“(笑)"じゃァァァァ!!」



わっちは日輪の文章に横線を何度も引く。
日輪は困惑した表情を見せた。



「もう……月詠ったら。
自分の気持ちに素直になったら?」
「………。」



わっちはその言葉を聞いて、呼吸が止まったような錯覚に陥った。
どくりと心臓がやけに生々しい音を立てる。



「月詠……?」
「月詠姉?」



二人はわっちの顔を覗き見て、首を傾げる。



――自分に素直になったら?



「そんな事……気安く言わないでくれ……!」



そう、わっちは正直になったのじゃ。
自分の気持ち、恋心と言う物に。
わっちが日輪と晴太の年賀状を見たら、どんな人でもわっちが……。



……わっちが。
あの男を好きなのがわかる。
手に取るように。
師匠に言われる前から、薄々感づいてた。
あの男の前のわっちは可笑しいとな。



やけに高鳴る心臓。
ほてって来る身体。
合わせられない視線。



その気持ちを和らげる為に、わっちはいつもあの男と小競り合いをする。
天パなの、無愛想な女なの。
だが、わかってたんじゃ。
時期に喧嘩してる彼の声が愛おしくなってきて、あの何考えてるのかわからない飄々とした顔付きも。
全部が、わっちの胸の内を支配して。
わっちの心の臓は、狂ってしまうのではないかと。



嫌、狂ってしまったのはわっち自身じゃ。
だって……。



「あの男は、受け入れてくれなかったのじゃから。」



彼に想いを伝えた。
好きだと言った。
しかし、彼はそれを拒んだ。
自分は女を抱く権利はないからと。



わっちも恐かったのじゃ。
自分が女に目覚めて行くのが。
だが、あの男はわっちを女として、仲間として受け入れてくれた。



……なのに。



何故、あいつはわっちを拒んだのじゃろう。
自分に魅力がないから。
汚れてるから。
色気とか、そういう女の魅力がないから。
理由は無数に上げられた。
けど、わっちが1番気になっているのは……。



「あの男は……“女"を恐れておる。」



恐いと言った。
わっちに助けをこうた。
わっちはそれを受け止めた。
ただ、それだけの関係。
その男が、一人の女を受け止めようとしておるのじゃ。
なら……わっちはそれを受け止めるしかなかろうて。



わっちは無心になってペンを取り、走らせる。
それは相手と銀時を祝福する言葉。



胸が詰まった。
けど、これしかなかった。



わっちは、直ぐさまその葉書を退け、次の葉書に取り掛かった。









【続く】
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ