【書庫】銀×月【Long】

□『否定した気持ちはどうやっても胸のしこりは取れない。』
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あれから、数週間は経った。
わっちが銀時に年賀状を書き、送った年賀状。


『末永くお幸せに』


この言葉には、いろいろな意味があると思う。
少なくとも、わっちは沢山の意味を、気持ちを、この言葉全てに込めた。


……もう、否定する気もない。
何故わっちがこんなにも複雑な気持ちなのか。
何故わっちがこんなにも靄の掛かった妙な感情を抱いているのか。


……全ては、奴のせい。
奴がわっちを狂わせた。
わっちの日常を狂わせた。
わっちの気持ちを掻き乱した。


……なぁ、銀時。
主は、どうやってこの責任をとってくれるんじゃ?





『否定した気持ちはどうやっても胸のしこりは取れない。』






「銀さん。」
「………。」
「ねぇ、銀さんってば。」
「………。」
「いい加減起きろ、この能無し天然パーマァァァァ!!」
「ぎゃあああああ!!」


新八の脳天チョップが銀時の頭に喰らわれる。
銀時は断絶魔に近い叫び声を出した。


「いってぇなぁ、何するんだよ!」
「“何するんだよ”じゃありませんよ!
ずっと話し掛けてるのに、全然反応してくれないし!
お前は脳まで糖分に侵されたか!」
「本望だ。」
「うるせぇ!
一生彼女とか作らないで、プー太郎の生活してろ!」
「本望だ。」
「むがぁぁぁぁぁ!!」


「もういいです。」と、づかづかと荒い歩調で歩いて行く新八。
銀時は頭をさすって、再び自分の世界に入り込んだ。



――今週のパチンコ、どの台が当たり出るだろう。



そういや、エヴァの新台出たっけな。
うちに行ってくるか?
嫌、でもそんな好奇心で今までどれだけすった事か。


「うぬぬぬぬ……。」


銀時は焦っていた。
いかに自分が楽に金を儲けるかを。
手元の財布には五百円。
なかなかの大金だ。
失敗したら、新八に殺される……。


「よし!」


銀時はソファーから立ち上がり、財布を手に取る。

「新八、神楽、ちょっと出掛けて来るわ。」
「何処行くアルか?」
「男になる旅に。」


銀時にとってはのキメ顔を作り、銀時は万事屋から出て行った。
そんな後ろ姿を見て、神楽は一言。


「……銀ちゃん、鼻毛出てたアル。」


定春が大きな欠伸をした。












「銀様ー、寄って行きませんか?」
「是非、是非私の店に。」


沢山の遊女が銀時を取り囲んでいる。
銀時はいつもは無視する所だが、今回は一人一人の話を丹念に聞いている。


そう、お金を少しで増やすと言う確率の低い事は辞めて、吉原でウハウハな体験をしたいと思ったのである。
ある意味、五百円で遊郭で遊ぼうとしているのだから、肝が座っていると言えるだろう。
嫌、単純に馬鹿なのである。


「ねぇ、お姉ちゃん達。
五百円で遊べる所知らない?
嫌、出来ればタダ。」
「え……。
銀様は今、五百円しか持っていないのですか?」
「そうなのでありんすか、銀様。」
「……ない、かなぁ。」
「………。」


遊女が次々と散って行く。
最後には、銀時一人になってしまった。
妙な疎外感に浸りながら、銀時は面倒臭さそうに頭をかく。


「……どうしよ。」


一瞬、日輪の顔が頭に浮かぶ。
だが、直ぐにその考えを掻き消した。
駄目だ、あいつの所行ったら、ウハウハ何か出来ねェ……。


「誰か俺のバズーカを使わせてくれる店はないのかよ!
いいじゃん、五百円いいじゃん、大金だよ!?」


道端で思い切り要求不満をぶちまけるこいつも流石だと思う。
しかし、誰も遊女は寄って来ない。


「………。
帰ろうかな、俺。
何だよ何だよ、俺は吉原を救った救世主だぞ?」


愚痴を零すようにぶつぶつと言いながら、帰りの道を歩み始める銀時。
ふと、誰かに肩を叩かれた。
銀時は後ろを振り返る。


「……お。」


思わず声が出てしまった。
見る目全てを魅了していまうような美しい顔立ちをした遊女が、そこにいた。


「銀様。
私の店で杯を交わしません事?」
「え、俺金ないよ?」
「無料で提供するでありんす。」


そう言って、女は妖艶に微笑むのだった。







【続く】
 

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