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□いつかの黄昏から聞こえる
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(※名前変換なし)

放課後 ユートくんと一緒に帰ろうと思って、一年下の教室に来てから数分が経った…と思う
ユートくんの周りにはたくさんの友達と思われる人が集まっていて、次から次に尽きない話題を前に声をかけるタイミングがないのです
良く見れば、集まっている子達の大半は女の子。そう、ユートくんは誰にでも優しくて人当たりも良いから女の子に凄くモテる
今、集まっている女の子達もユートくんが好きで一緒に帰ろうって誘っている最中の様に見えた
そんな子達の中に堂々と入ってユートくんを連れ出すなんて事、こんな小さな心臓では実行出来ない。何あのちんちくりんと思われて、明日恨みで刺される…なんて事なりたくない!今日は一人で帰ろうかな


「姉さん」

「あ、ユートくん。どうし…」

「すまない、オレにはこの人がいるんだ」

「え?ユ、ユートくん?」

「行こう、姉さん」



一人で帰ろうとしたその時、颯爽と目の前に現れたユートくんが瞬く間に私の手を取って教室から連れ出してくれた。きっとあの中から私が入り口の所でぼんやりしていたのを見つけて、心配してくれての行動だと思う
…どうしよう、ぎゅうと繋いだ手に突き刺さる視線が痛い。ユートくんは全然気付いてない様で手を離してくれる様子は見られない、やっぱり一人でさっさと帰るべきだったとぼんやりしていた自分を責めた


「ユートくん、あの、あんな事をあの子達の前で言っちゃってよかったの?」

「あんな事?」

「集まってくれた女の子達、きっとユートくんが行っちゃって残念がってるよ?
折角ユートくんとお話したり、仲良くなろうとして来てくれたのに…」

「そう、なのか?オレにはそうは思えなかった」

「そうだよ。ユートくんはカッコいいし、優しいから…お姉ちゃんの自慢だよ」



眉目秀麗でいて、この街で人気のDMのセンスも良いユートくんは私の自慢の弟だ。そんなユートくんを女の子達が放っておかないと思うのは些か過大評価し過ぎかな?でも本当にそう思っている事なのだ
少し気分が乗って、鼻歌さえも口ずさんでしまいそうな私とは逆にユートくんは苦い顔をした、どうしたんだろう?変な事を言っちゃったかな?思い返してみれば、さっきの言葉はブラコン過ぎた、もしかして引かれた?!


「だがオレは…」

「な、なぁに?ユートくん」

「オレはたくさんの友人よりも姉さんが傍にいてくれた方が嬉しい、と思う」

「うーん…でも私はもっとユートくんに友達を沢山作ってほしいなぁ」

「…姉さんはオレが傍にいたら、迷惑だと思うか?」



困った様に+悲しそうな表情に私が弱い事をユートくんは知っているのか、浮かべて来た。きっと無意識の内に浮かべたものだって分かってるけど、この状況でその表情は些か卑怯だ、私の弱点突き過ぎだよ、ユートくん
その表情にいつも負けてきたっけ、例えば夜のスイーツも姉さんに太って欲しくないと言われて止めた事もあった
でもだめ、今日は負けられないの。これは私の事じゃなくて、ユートくんの人間関係や未来に関わる事だから


「ううん、そうじゃないよ。私とは生まれた時からずっと一緒でしょ?あんまりユートくんにとって、代わり映えしないかなーって
だからユートくんにはお互いに刺激しあえる友達を作ってもらって、今よりももっと成長してほしいなーって思うの」

「オレは姉さんだけじゃない、隼や瑠璃もいる今の状況に満足してるんだが…
でも姉さんがオレの事を思って言ってくれているのは分かった、今の言葉は胸に留めておく。ありがとう、姉さん」

「私も我が侭を聞いてくれて、ありがとう」



本当に我が侭に過ぎない言葉を受けとってくれたユートくんは優しいんだと思う、ただの姉妹に過ぎない私が普通は対人関係に踏み込む事なんて、許されない筈なのにユートくんは笑って受け入れてくれた
受け入れてもらった事を嬉しいと思うと同時に少しだけ不安になる、ユートくんは優しい、ううん優し過ぎるから、私の言った言葉を真に受け過ぎてそうならないといけないと自分を追い詰めるんじゃないかって


「…そうか」

「?」

「姉さんの周りにいつも人がいるのは、姉さんがそんな風に誰かの事を真剣に考えられる優しい人だからなんだな」

「ん、ん?」

「?オレが優しくて、それが理由で人が集まると言うなら姉さんだってそうだろう?」



ああもう、そんな真っ直ぐな目で見られると違うのに違うって言えなくなっちゃうの分かってないんだろうな、分かってて言っていたなら凄い計算づくの言葉だよ。自分の弟なのに、その殺し文句にドキドキする私がいて
何も言えない代わりにユートくんの事を思いっきり抱き締めた。姉さん苦しいという声と真っ赤になった耳が見えたけど、ユートくんに劣らない真っ赤な顔を上げる訳にはいかないのでユートくんには少し我慢してもらう事にした


いつかの黄昏から聞こえる
(今は遥か遠く)
(穏やかであり続けた筈の日々)



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