焔の光 ‐鬼‐

□焔の光 ‐肆‐ 
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「言われた通り切符を切って眠らせました どうか早く私も眠らせてください 死んだ妻と娘に合わせてください お願いします お願いします・・・」

切符を切っていた車掌が泣きながら土下座していた

その相手は左手
目も口もあり、夢と刻まれている

先頭車両にいる鬼
下弦の一 魘夢の左手だった

「いいとも よくやってくれたね お眠り 家族に会える 良い夢を」

ドクン

車掌の体が高鳴ったと同時にドサリとその場に倒れた

その横に五人の子供たちがいた

「あの・・・私たちは・・・」

「もう少ししたら眠りが深くなる それまでここで待ってて 勘のいい鬼狩りは殺気や鬼の気配で目を覚ます時がある 近づいて縄を繋ぐ時も体に触らないように気をつけること
俺は暫く先頭車両から動けない 準備が整うまで頑張ってね 幸せな夢を見るために」

「はい」

「どんなに強い鬼狩りだって関係ない 人間の原動力は心だ 精神だ “精神の核”を破壊すればいいんだよ そうすれば生きる屍だ 殺すのも簡単 人間の心なんてみんな同じ 硝子細工みたい脆くて弱いんだから」

杏寿郎にもたれかかって寧々も炭治郎も眠っていた

伊之助と善逸も隣の座席で眠っている

善逸は炭治郎の妹と楽しく遊んでいる夢

炭治郎は家族と楽しく暮らしていた頃の夢

伊之助は親分となり、子分(炭治郎、善逸、禰豆子)を従えつつ探検をする夢を見ていた

杏寿郎は一瞬何をしていたか疑問に感じながらも、父に柱になった報告をしに来たことを思い出した

だが父は喜んではくれなかった

「柱になったから何だ くだらん・・・どうでもいい どうせ大したものにはなれないんだ お前も俺も」

部屋を後にし、廊下を歩いていると弟の千寿郎が顔を出した

「あ・・・兄上 父上は喜んでくれましたか?俺も柱になったら父上に認めてもらえるでしょうか」

千寿郎の顔を見て杏寿郎は思う

昔から父はああではなかったと

鬼殺隊の柱にまでなった父だ
情熱のある人だったのにある日突然剣士をやめた

あんなにも熱心に俺たちを育ててくれていた人がなぜ・・・

考えても仕方ないことは考えるな

弟はもっと可哀想だ 物心つく前に病死した母の記憶はほとんど無く、父はあの状態た


スっと杏寿郎はしゃがみ千寿郎の顔を見た

「正直に言う 父上は喜んでくれなかった!どうでもいいとのことだ しかし!そんなことで俺の情熱は無くならない!心の炎が消えることはない!俺は決して挫けない
そして千寿郎 お前は俺とは違う!お前には兄がいる 兄は弟を信じている どんな道を歩んでもお前は立派な人間になる 燃えるような情熱を胸に 頑張ろう!頑張って生きて行こう!寂しくとも!」

泣いている弟を抱きしめていると

『煉獄さーん』

寧々の声が聞こえる

千寿郎の涙を吹いて寧々の元へと向かった

自分も、千寿郎も太陽のように眩しいこの笑顔に何度救われただろう
今日はキツイなと思った時にはあの味噌汁が出てきて
寂しいときには手を握ってくれて、苦しいときにはさり気なく側にいて寄り添ってくれてる
大丈夫?だとか頑張れ、だとかは言わない。だけど下手な慰めなどよりその方が救われた

前に寧々が言っていた。父はたまに“心配している目”をしていると。
だから柱になったことを喜んでくれなかったのか・・・

『煉獄さん、羽織かっこいいね』

この子の笑顔がとても好きだ
千寿郎と共に思わず抱き寄せた

「二人共、いつもありがとう」
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