脱色
□午前零時のラヴ・ソング
2ページ/4ページ
『今夜、きっと電話するわ』
ネリエルが昼間そう告げたから、テスラはずっと待っていた。読みかけの本と携帯電話を先程から何度、交互に眺めただろうか。
それでも、携帯電話は鳴る素振りも、震える素振りも見せなかった。
夜も更け、多くの人々が眠りに就いただろう時刻にテスラはたった一人、睡魔と戦っていた。
机の上に置かれたカップの中のコーヒーは残り少なく、冷め切っている。
「…馬鹿だな。わかってたはずなんだけど」
一向に読み進まない本を小さく音を立てて閉じれば、テスラは誰に聞かせるのでもなく一人ごちた。
わかっていたはず。
己が想いを寄せる女性は、別の男のもの。
それもその男は己が日々慕い、付き添う男なのだから。
以前、ネリエルはこう言っていた。
「彼」は他の男とメールをするのも電話をするのも、許してはくれないと。
「助けて」とも「攫って」ともネリエルは告げなかったが、その瞳はまるで籠の中に閉じこめられた小鳥のそれに似ていた。
あなたは、……外に出たいのですか?
だけど、僕は、無力です──…。
きっと今頃、二人は一緒にいるのだろう。
もしかしたら、体温を共有しあっているのかもしれない。
そんな考えがテスラの脳裏をよぎった時、明るい曲調の着信メロディが流れた。まさしくそれは、テスラがネリエル専用にと設定したポップス。
ネリエル、の四文字と電話が鳴っている様を表した内蔵画像がテスラの携帯電話の小さな画面に映し出された。
テスラは慌てて通話ボタンを押し、耳元に携帯電話を軽く当てる。
「……もしもし、?」