脱色
□Remember Me?
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消えたはずのあいつの霊圧が、再び肌を震わせる。
それはとても、懐かしくて。
…恋しくて。
ウルキオラはその霊圧を辿るように駆け出した。一見微弱そうに放出しているものの、それは遥かに強く大きいもの。
強さを隠しているのか、他に意図があるのか。
ウルキオラは一度考えあぐねるものの、答えなど出てくるはずも無く。
3ケタの巣へと続く通路へ向かった。
「いっぢごォーッ!どこにいるっスかぁー?」
半泣きでやってきた少女は必死で辺りを見渡し、何も無い平坦な地の上で躓き、転けてはまたべそをかく。
霊圧はネリエルのものであるのに、姿形は幼かった。それでも、彼女を思わせる部分が幾つか、その少女には存在した。
翡翠色の癖のある髪。
頭部の仮面はネリエルと似通っている。似通い、過ぎている。
「…戻ってきたのか、ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク」
ウルキオラの口からそんな言葉が、突いて出た。
意識した訳でもないのに、ウルキオラの細胞が、少女をネリエルと決めてかかる。
殺風景な空間で地に這いつくばるネルはウルキオラをおずおずと不思議そうに見上げ、首を傾げた。
「ネルは…ネルっス。先を急ぐんでー………」
無表情なウルキオラの視線に堪えきれなかったのか、ネルは立ち上がり小走りでその場を通り過ぎようと試みた。
ウルキオラの脇を通りかかった時、ネルから発せられた甘い香りがウルキオラの鼻に届く。
ウルキオラは以前何度も、この香りに恋をした。
ウルキオラの脳裏に浮かび上がるネリエルは、いつも凛としていて、女ながらに十刃の肩書きに誇りを持っていた。
それなのに、だ。
ネリエルはある日、虚夜宮から姿を消したのだ。無数の血痕を残し、ウルキオラの前から姿を消した。
消息は不明、屍すらどれ程手を尽くし探し出そうとしても見つからなくて。
後日、ネリエルの失脚が報告されたと共に他の十刃の位が変動。
その時のノイトラの高笑いがウルキオラの耳に響き、今も1日たりとて忘れる事が出来ないでいた。
ノイトラの斬魂刀からは、愛しい者の血の匂いがした事をウルキオラは覚えている。
ネリエルの、……血。