脱色
□君をつれて遥か遠く
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数日後、テスラはノイトラの遣いで虚夜宮を忙しく走り回っていた。
言伝やら視察等の業務が終わり、ノイトラの宮に帰り着いたのはもう夕暮れ時。
報告をするべく扉前に立った時、下の方にうずくまるネリエルの姿に気が付いた。
規則正しい呼吸は睡眠中である証、ノイトラは不在であり、待ちくたびれて眠ってしまったのだろうか。
考えるよりも先にとテスラがネリエルを起こそうとした時、微かではあるが扉の奥より女の矯声が聞こえたような気がした。
このような事態は日常茶飯事であるものの、そうそう慣れるものではない。
テスラは息を呑んだ。
もう一度注意深く耳を済ませば、今度はノイトラの声と共に、扉の奥の淫靡な空気がテスラに伝わった。
「私じゃ、ダメなの?……ねぇ…ノイトラ…」
扉の前で入室を、…扉を叩く事すら躊躇していたテスラの肩が、ピクリと揺れた。
「ネリエル、様…?」
うずくまるネリエルを見下ろし呼び掛けても何の反応も示さずにいるため、まだ夢の中だとテスラは知る。
己もネリエルと同様に屈み込むと、目前の翡翠色の鮮やかな頭を撫でた。
「私はこんなに、好きなのに…」
寝言でも尚、ノイトラの名を呼んで。
愛を伝えて。
テスラの眉が哀しく歪んだ。
自分なら、こんなに悲しませはしないのに。
夕暮れ時には寄り添って、一人泣くような事はさせないのに。
ネリエルの頭部に置いたテスラの手が肩を滑り、白い手を掴んだ。
そのか細いネリエルの指にそっと、まるで壊れ物にでも触れるかのように。
テスラは一度しまい込んだ言葉を、胸の奥から取り出した。
それは、ずっと口に出来なかった己の想い。
まるで、おとぎ話を聞かせるように。
まるで幼子に言い聞かせるように。
ネリエルに、告げた。
「ネリエル様、どうしてもノイトラ様でなくてはいけませんか…?」
「僕ならきっと、あなたを…」
泣かせたりしないのに。
テスラがそう言い掛けた時、扉の奥からノイトラの声がした。
徐々に近付く、霊圧。