脱色

□目の前の現実は厳しすぎて
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それはまるで俺を静かに攻撃するように。





あるいは、威嚇か。









あいつらしい、静寂な地を潜むように這い近づいてくるような感覚。
それは隙の無い、獣のよう。








より大きく強く霊圧が放たれる場所に視線を向ければ、そこは天に向かって聳え立つ塔のある、あいつの宮で。

塔の上から俺を静かに、軽蔑するように見下ろしていた。





塔から僅かに身を乗り出し、頬杖を付いて。








「ネリエル…」
此処からあいつの名前を呼んでも、きっと届かねぇ。それ程その塔は造りモンの空に限りなく、近く。

あいつの長い髪が緩やかに靡いている様が、見て取れた。







瞬間、俺の中に生まれる黒い色。あいつの泣き顔が、見たくなったのだ。
その綺麗な顔は、嫉妬でどのように歪むんだろうか。











「気ィ変わった。てめぇ…今夜ヤらせろよ?」





纏わりつく女共の中から適当に一人抱き寄せれば、目をそらそうとも逃げようともしないあいつに見せ付けるように、数字が刻まれた舌をちらつかせる。
そして中指のみ天へ向け立たせ、その腕を突き出した。




俺の腕の中の女は選ばれた事による嬉しさか否かどこか興奮気味に息を弾ませ、俺の体に腕を絡めた。


俺が、自分の所有物であるかのように。
女から漂うのは甘ったるい香。むせかえるようなそれは、嫌という程雌である事を強調していた。









俺が香の強さに幾度か不快感を覚えながら女を抱いているのにも関わらず、ネリエルは淡々とした表情でこちらを見据えていた。






俺が誰とキスしていようが寝ていようが知った事では無い、とでも言いたげに。




事実、あいつと俺は何の関係も無ぇから、それは当たり前の態度で。









それでも俺は何かの期待を抱いていたのだろうか?
あいつが嫉妬に苦しむ様を見物出来る、と…?



次第に苛立ちが募りだした。
あいつに。
…俺に。









「ノイトラ様、夜と言わずに…これから…。ね?」







女は上着の胸元を大胆に開け、誘うように俺に口付けた。













応えるように俺は女の腰に乱暴に手を伸ばし、引き寄せる。
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