オルタナ 2

□第31話
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 雨が、降っている。
 コンクリートから立ち上る蒸れた臭いが微風に乗って。

 梅雨入りを迎えるとやはり、屋上を訪れる生徒は少なくなっていた。

 それは昼休みの今とて同じ。こんな雨の日に、ここで過ごす者など誰もいない。

 そう、彼以外は。

 浅倉ヒロ。
 傘もささず、ただ灰色の空を見上げる。ただ、灰色を。
 梅雨特有の、体にまとわり付くような雨に打たれながらも、尚。

 もうしばらくすると、親しい女子三人の内の誰かが傘を持ってここを訪れるだろう。
 そしてヒロは保健室に行き、制服を乾かしながら、猫と戯れる。口の悪い保険医の相手をするのも忘れずに。

 これが最近のヒロである。あれ以来、何かが変わった訳でもないがしかし、それは何も変わらないということでもない。

 ここに来れば、彼に会えるような気がして――。

 陳腐、である。けれどもヒロは、屋上に漂う彼――来栖ジュンの、残り香のようなものを感じ取っていた。
 それは恐らく、ヒロにしか感じ得ないものなのだろう。

 やがて背後から、ドアが開くか細い音がした。

 ミウかスピカか、はたまたアカネか? ――そう思い、ヒロはいつもの“優しい浅倉ヒロ”の顔を作り、振り返る。
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