オルタナ 2
□第31話
2ページ/7ページ
雨が、降っている。
コンクリートから立ち上る蒸れた臭いが微風に乗って。
梅雨入りを迎えるとやはり、屋上を訪れる生徒は少なくなっていた。
それは昼休みの今とて同じ。こんな雨の日に、ここで過ごす者など誰もいない。
そう、彼以外は。
浅倉ヒロ。
傘もささず、ただ灰色の空を見上げる。ただ、灰色を。
梅雨特有の、体にまとわり付くような雨に打たれながらも、尚。
もうしばらくすると、親しい女子三人の内の誰かが傘を持ってここを訪れるだろう。
そしてヒロは保健室に行き、制服を乾かしながら、猫と戯れる。口の悪い保険医の相手をするのも忘れずに。
これが最近のヒロである。あれ以来、何かが変わった訳でもないがしかし、それは何も変わらないということでもない。
ここに来れば、彼に会えるような気がして――。
陳腐、である。けれどもヒロは、屋上に漂う彼――来栖ジュンの、残り香のようなものを感じ取っていた。
それは恐らく、ヒロにしか感じ得ないものなのだろう。
やがて背後から、ドアが開くか細い音がした。
ミウかスピカか、はたまたアカネか? ――そう思い、ヒロはいつもの“優しい浅倉ヒロ”の顔を作り、振り返る。