オルタナ 3
□第70話
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訳が分からなかった。思考力が低下する。どうして目の前の少女はこんなに醜い嗤いを浮かべているのか、どうして自分が今抱いているこの沢渡アカネがそんな事を言うのか、ヒロには分からなかった。
ずっと、殺したかった──そう、アカネは言った。聞き間違いなどでは決してない。アカネは自分を見上げ、確かにそう言ったのだ。
だが、アカネが自分にそんな言葉を吐くなど、ある筈がない。そんな事は、あってはならない。
ならば、自分が今抱き締めているこの女はいったい──?
急激に体温が下がっていくのが分かる。先程まで温かく、柔らかかったアカネの体。──それが今はもう、冷たい肉塊としか思えない。
「あか……アカ、ネ?」
込み上げる吐き気を堪え、ヒロはなんとかそう言った。震える唇に犬歯が突き刺さり、じわりと血が滲んで。
「ふふ……」
す、とアカネの白い人差し指がヒロの下唇を撫でる。うっすら紅に染まった指の腹を見て、アカネの目がぐにゃりと三日月形に曲がった。恐らくは、笑んでいるのだろう。
だが、ヒロは恐怖した。愛らしさの象徴のような三日月目を見ても尚、この“アカネの姿をしたナニか”を畏れた。