オルタナ 3

□第66話
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 桜景祭。年に一度の文化の祭典は、今年も大盛況だった。
 中でも注目を浴びたのは、やはりレイジ率いる二年C組によるメイド喫茶『キュアっとふぉ〜むcafe』である。その店名からは容易に萌え要素を連想させるがしかし、一歩店内に足を踏み入れれば、そこは洗練されたヴィクトリアンメイド達による徹底した奉仕の世界。それでいて押し付けがましい事はなく、必要以上に媚びる事もない。
 このギャップが客の心を打った。サブカルチャーに疎い所謂“一般人”の彼らには、メイド喫茶と聞いて連想するものは現代のオタク文化に染まった“アレ”しかなかったのである。怖いもの見たさで見世物小屋にでも行ってみるか、といったノリで訪れる客も少なくなかった。
 しかし高野軍曹の特殊訓練を耐え抜いた精鋭達は、そんな彼らの好奇の眼差しをかわす事なく全身で受け止め、お返しにアルカイックスマイルにも似た微笑みを贈るのだった。

『おかえりなさいませ、ご主人様』

 更にメイド達は、客の年齢層によって『ご主人様』と『旦那様』を使い分けていた。見た目四十代までは『ご主人様』を、それ以上には『旦那様』をといった具合にだ。まさに完璧である。
 そしてご主人様ないし旦那様方は気付くのだ。これも立派な、

(も……萌え?)

 なのではないか、と。

 作り笑いで媚びまくる、メイドなどとは決して呼べぬ売女がこしらえた『萌え萌えオムライス』などここには存在しない。
 それでも客は、自身の胸の内に宿る確かな熱い息吹を感じ取っていた。
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