オルタナ 3
□第64話
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緊迫していた。
この季節には不釣り合いな汗がヒロの首筋を滑り落ち、それを拭う事もままならない。
ミウとスピカを見やれば、二人も同じく緊張の色を隠せないでいる。
一触即発──というよりは、蛇に睨まれた蛙といった方が正しいだろう。ミウとスピカからは、この状況を打破しよう、何とか抵抗しようといった意思は感じられない。それはもちろん、ヒロ自身からも。
視線を真正面に戻す。途端に、研ぎ澄まされた真剣のような眼光に射抜かれ、否が応でも自身の終末を実感するヒロだった。
耳鳴りだろうか、ここにいる全ての弱者の耳に、しん──という音がこびり付く。
それは本来、無音である事を表す擬態語なのだが、ヒロ達にはとてもそうは思えない。一人一人の耳元で『こっちへおいで』と囁く死神の息遣いのように聞こえた。
やがて、居並ぶ蛙の群れの中で、一際癪に触る一匹をぎろりと睨み付け、ゆっくりと蛇は口を開く。
「──で、どうするつもりなんだ?」
それを受けた蛙はきょとんとした後、蛇の意図するところを理解してしまったのだろう。その惚け面がみるみるうちに青ざめていく。