オルタナ 2

□第41話
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 その日は朝から快晴だった。
 窓の向こうには、一面に拡がる空の青と、どこからか流れてくるラジオ体操の音楽。そして、鳥のさえずり。

 未だ寝ぼけまなこの岡崎サトシは、それらを見るでも聞くでもなく、淹れたばかりのホットコーヒーに口を付ける。

 サトシの住む築20年程のおんぼろアパートは、部屋の隅々に目を凝らすと、なるほどその年輪を感じる事が出来る。
 もっとも、男の一人暮らしなのだ。言ってしまえば、寝る場所と風呂にトイレだけ有ればいい。暖かくなってくると姿を現す恐怖の生命体“G”の対処も、もう手馴れたものだ。

『アンタもそろそろ嫁さん貰って、あたしらを安心させとくれよ……』

 とは、実家の母の弁である。これが電話を切る際の『じゃあ、またね』の代わりだ。サトシはそれを疎ましく思うがしかし、少しの申し訳なさも感じていた。

 昨日までは。

 カフェインとは偉大なものだ。三口でサトシの曖昧な意識を覚醒に至らしめ給う魔法の秘薬である。
 それにより、今日の時間割がサトシの脳内で、電光掲示板のように浮かび上がってくるではないか。

(──1時限目は2―Cか。また高野と浅倉は遅刻かな?)

 さて、今日も頑張ろう──そう思い、コーヒーを一気にあおる。とそこで、ようやく真の意味でカフェインが効き始める。

 ──高野と浅倉……2―C……。

「…………ブヘエッ!」

 今年初めての“G”は、サトシの吹き出したブラックコーヒーの直射により、その短い生涯の幕を降ろす事となった。
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