オルタナ 2

□第37話
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 音楽室を出たチエは、その足で体育館裏へと向かう。
 理由は特にない。しいて言えば、雨上がりの地面に出来た水溜まりを見てみよう――それぐらいだった。

 つい先ほどアカリの変貌を目の当たりにしたというのに、チエの心には何も残ってはいない。スピカがチエに抱いた第一印象も、遠からず当たっていると言える。

 背後から弱々しく流れていたピアノの旋律の替わりに、今度は前方から段々と生徒の笑い声が聞こえてくる。
 帰り支度をしていたり部活動だったり様々だが、チエが一歩進むごとに廊下は活気に満ちていく。

 だが、チエには何も残らないし、何も感じない。

 何人かの生徒達と目が合う。
 すると、チエとすれ違う彼らが皆、首を傾げるのだ。

『うわ、あのコきれいだなぁ……』

『うん、確かに。でもさ……』

『……ああ』

 ――あんなコ、ウチにいたっけ?

 チエの華奢な背中を見送る彼らは皆、思わず口から漏れそうになるその言葉を必死に飲み込んだ。

 言ってはならない――そんな気がした。
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