オルタナ 2
□第37話
1ページ/10ページ
音楽室を出たチエは、その足で体育館裏へと向かう。
理由は特にない。しいて言えば、雨上がりの地面に出来た水溜まりを見てみよう――それぐらいだった。
つい先ほどアカリの変貌を目の当たりにしたというのに、チエの心には何も残ってはいない。スピカがチエに抱いた第一印象も、遠からず当たっていると言える。
背後から弱々しく流れていたピアノの旋律の替わりに、今度は前方から段々と生徒の笑い声が聞こえてくる。
帰り支度をしていたり部活動だったり様々だが、チエが一歩進むごとに廊下は活気に満ちていく。
だが、チエには何も残らないし、何も感じない。
何人かの生徒達と目が合う。
すると、チエとすれ違う彼らが皆、首を傾げるのだ。
『うわ、あのコきれいだなぁ……』
『うん、確かに。でもさ……』
『……ああ』
――あんなコ、ウチにいたっけ?
チエの華奢な背中を見送る彼らは皆、思わず口から漏れそうになるその言葉を必死に飲み込んだ。
言ってはならない――そんな気がした。