オルタナ 2
□第33話
1ページ/11ページ
「あ〜もう、鬱陶しい!」
梅雨特有の生ぬるい微風が、じめじめと彼のライトブラウンの髪に絡み付く。
そのせいで、ここのところ彼はご機嫌斜めだ。
高野レイジ。彼は、極度の癖毛である。その為、毎朝のセットに時間がかかり、そのせいで遅刻してしまうこともざらにある。
だがそんなレイジの努力を知る者は少ない。
当然、この湿気を多量に帯びた風も、レイジの頭髪事情など知る筈もなく、まさに“どこ吹く風”である。
家を出た辺りではまだビシッと決まっていたヘアスタイルも、坂道を登る頃には所々ピョコンと無邪気に跳ね、踊る。
いっそのこと坊主頭にしてしまおうか、とも思った。桜景学園で一、ニを争う伊達男のレイジなのだから、坊主頭にしても精悍さが増して、魅力的だったかもしれない。
しかしそれは彼の美的センスが許さないようだ。
何としてでも梅雨をこの髪で乗り切る――持ちうる全ての情熱を燃やし、そう誓うレイジなのだった。
“無駄な努力”は禁句とさせていただこう。彼は、世の天然パーマ諸君に、夢と希望と生きる勇気を与えようとしているのだから。