オルタナ 3

□第69話
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 ふと、ザンは自分の手を見る。爪の間には、どす黒く凝固した血がこびりついている。
 それは、ザンがこれまで殺めてきた者達の、命の証し。

「ははっ、いくら洗っても落ちないんだわ」

 ヒロにとってのミウがそうであるように、チエにとってのザンも、そう。

 だから。

「……わたし、ザンの手、嫌いじゃない」

 また、はにかんだ。

「へへ、そりゃどうも」

 随分と非道な事もした。勝つ為なら、殺す為なら、どんな事でもやった。
 ──そんな自分でも、たまにはこんな日も悪くない。

 そう思い、ザンがペットボトルの蓋を捻ったその時、だった──

「…………あ」

 チエの表情が変わる。

 それは、これまでチエの顔に貼り付いていた氷点下の無表情ではなかった。
 かと言ってザンにだけ見せる、陽だまりにそよぐ柔らかな風のような微笑でもない。

 ──ならば、チエが見せた顔とは?

「おい、いったいどうしたってんだよ!?」

「あ……あ……」

 涙、泪、笑い、嗤い──それらが混じった恍惚に近しい表情、だった。

「……まだ……分からないの?」

「何が……だよ?」

「あはっ……ザン、ザン、あははっ……分からない?」

「…………っ!!」

 ──理解、した。

 ザンの手から、ペットボトルがするりと墜ちた。フローリングの床に、コーヒーの茶褐色が厭らしく拡がっていく。
 それを見て、チエはことさら笑い声を上げた。
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