オルタナ 3
□第69話
2ページ/14ページ
「あらあら、いらっしゃーいヒロ君。お久しぶりね、うふふ」
まるで我が子に贈るそれのように、やんわりと目を細めるヨシエだった。
「ども、こんにちはっす。あの〜……アカネは?」
「うふふ……あの子ったらね、今とっても頑張ってるのよ。だから、上がって待っててあげて?」
ヒロはうす、と返事をして玄関を上がり、二階のアカネの部屋へ。──ぶっきらぼうに見えるが、そこはヒロのヨシエに対する甘えだった。ヨシエもまた、そんなヒロを可愛いと思う。
「──ちょっと背伸びたかしらね? うふふ」
階段を行くその背を頼もしげに見上げるヨシエは、玄関のヒロの靴を揃えてから、また笑んだ。
キッチンでは、アカネが孤軍奮闘している。
薄力粉、強力粉、塩、グラニュー糖をボールに入れ、水とバターを加えて練り込む。
林檎を切って煮詰め、レモン汁とシナモンを振りかける。
馴染ませたパイ生地を伸ばし、パイ皿に敷き、その上に、汁気をきったフィリングを詰める。
つや出しの卵をパイ皿の縁の生地にぬり、残りの生地をパイ皿に被せ、皿にそって周囲の生地を切り落とす。
被せたパイ生地の上につや出しのとき卵を塗る。
──ここまでが、ヒロが来るまでに済ませた全行程だ。
「……ふう」
あとは、焼くだけ。