短編と設定集
□キリリク短編
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初夏。
午後の陽射しは暖かく……というより、やや過剰なまでに太陽は上機嫌だった。
それは、校舎裏で草むしりに励む相馬ユキトにも等しく降り注ぐ。
用務員が風邪でダウンしてからというもの、この作業は彼の日課となっていた。
「ふう……」
表情の乏しいユキトだが、額に浮かぶ汗の珠がその仕事量を物語っている。
太陽の恵みを存分に吸収した制服の上着は、目玉焼きでも焼けるのではと思う程に熱を帯びていた。
「……少し休憩だな」
滅多に云わない独り言を漏らす。つまるところ、ユキトはそこまで疲れていた。
すっかり日向と緑の匂いが染み付いた上着を脱ぎ、傍らの木にかけ、自身も背を預けて座り込む。こうしてみると、さっきまで散々苦しめられた木漏れ陽も中々に心地いいものだ。
「喉が……乾いたな」
また、独り言。
ユキトは自然と口から出るそれらに苦笑し、くいと眼鏡の位置を正してから立ち上がった。
再び直に受ける陽射しはやはり忌々しく、微かに眉をひそめるユキトなのだった。