短編と設定集
□秘密
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「おとーさん、おかーさん、改めておはよーっ!」
リビングにやって来たアカネは、先程までとは違っていつもの“沢渡アカネ”だった。
沢渡家ではこれを『スイッチが入った』と呼んでいる。
そう、アカネは朝に滅法弱かった。
「ん、おはようアカネ」
父、マサキは物静かにそう応え、トースト片手に朝刊へと目を落とした。
「うふ、改めておはよう、アカネ」
「おはよー。うわあ、美味しそう!」
トーストとハムエッグ、それにオレンジジュース。こんな定番と言えるメニューにも、瞳を輝かせるアカネである。
そこからはアカネのペースだった。
今日の1時限目は英語でどうたらこうたら。
その岡ちゃん先生はどうたらこうたら。
そしたらサイコ先生がどうたらこうたら。
とにかくたたみかける。捲し立てる。
器用にトーストとハムエッグを口に運びながらも、けして下品にはならないように。
マサキはただそれにうんうん、と頷いている。
ヨシエはオレンジジュースを飲みながら、あらあら、うふふ、と。
だが。
「ところでアカネ、ヒロ君は元気にしてるのか?」
マサキの言葉が、アカネの口をぴたりと止めた。