オルタナ 3
□第69話
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霜月の空に秋茜の群れが舞う。その赤が丁度頭上を飛んで往き、束の間でも肌寒さを忘れられたヒロである。
秋空の代名詞とも呼べるそれらはしかし、白昼には不釣り合いな篝火を思わせる。ヒロは何とも曖昧な笑みを浮かべ、冷秋をも厭わぬ大胆かつ優雅な飛びっぷりを見送るのだった。
ヒロは、この季節があまり好きではない。冬とも違う、どこか諦観のようなものが漂うこの季節が。
つまりは当然の事ながら、ヒロはまだまだ若いという事だ。
前方に、石焼き芋売りの白い軽ワゴンが見える。独特の、そしてお決まりの節回しが町内に響いている。
ヒロは、これだけは好きだった。そう言えば小腹も空いているし、ちょいと買っていこうか──などと考えたが。
「……やめとこう」
そのまま通り過ぎた。
石焼き芋は美味い。
でっぷり肥えたその腹を、真んまん中からパカリと割って、ほこほこ上った湯気掻き分けりゃ、そこにおわすは黄金郷(エルドラド)。
しかしながら、芋を食らえば“出る”やもしれない。今日に限ってそれだけは避けねばならない。
だから、我慢した。
我慢して、押した。
『──はぁ〜い』
「あ、ども、ヒロです」
沢渡家のチャイムを。