☆期間限定ss☆

□メルマガ読者限定SS
2ページ/9ページ

『ま、まさかキミ、十代君を酔わせて変なことする気じゃ…』

わなわなと震える指を差してくる相棒に、俺はフゥッとため息をついた。

「変なこととは失礼だぜ、相棒。俺はただ恥ずかしがりの十代君が素直に体を預けてくれるよう、酔わせてから頂こうと…」
『わ――っ!わ――っ!!わ――っ!!』
「……うるさいぜ、相棒」

顔を真っ赤にして近くで叫ぶ相棒に、俺は小指で耳を塞いで、呆れた声で言った。

『叫ぶのは当たり前だよ!!何考えてるんだキミは――っ!!』
「ちょ…相棒、落ち着けよ」

拳を握って興奮気味に怒鳴る相棒を、どうどうと宥める。
俺の安っぽい諫め方に、相棒の興奮は治まるはずもなく。

『信じられない!十代君のためにチョコを買ったキミをせっかく微笑ましく思ってたのにっ、そんなこと考えてたなんて!!』
「そんなことって…俺たちにとっては重要な愛を確かめ合う濃厚で甘美な時間なん…」
『とにかく!!お酒入りのチョコなんて食べさせて十代君にヤラシイことしようって言うならもう一人のボクに体は貸せないよっ!』
「あ、相棒?」

千年パズルが光り出す。
マズイ。このままでは今日1日パズルの中でお預け状態になってしまう。
俺は意識が入れ代わる前に、千年パズルを首から外した。
相棒が何か叫んでいた気がしたが、今回だけは勘弁してくれ。
俺は外した千年パズルを机の上にコトリと置いた。

「悪いな、相棒。こればっかりは譲れないぜ」
「こんにちは――っ!」

千年パズルに向かって謝罪の言葉を呟くと、階下から元気な声が聞こえてきた。
彼が、帰ってきたんだ。
弾み出す心。
部屋を出て、軽くなった足取りで、けれどゆったりと俺は階段を降りていった。
徐々に彼の声が近付いてくる。
聞き耳を立てれば、どうやらじいちゃんと話しているようだ。

「よく来てくれたのぉ!元気にしておったか?」
「ああ、元気も元気!まぁいろいろあったけど、五体満足健康体だぜ!」
「アッハッハ。それは何よりじゃ。そうじゃ、今日は朝から遊戯がのぉ…」
「じいちゃん」
「お、噂をすれば影じゃな。遊戯、十代君が来てくれたぞ」

ああ、知っていると、笑って頷き、俺は店に出た。

「遊戯さん!」
「十代君…っ!」

俺の顔を見た途端、とびっきりの笑顔で迎えてくれる君。
ずっとずっと会いたかった十代君が目の前にいて、俺は知らず知らずのうちに駆け出していた。
両手を広げて、ギュウッと十代君を抱き締める。

「わっ!ゆ、遊戯さんっ」

突然抱き締められたことに驚いたのか、十代君が腕の中でワタワタと慌てふためく。
それに構わず俺が更に強い力で華奢な体を抱き竦めると、十代君は大人しくなって、背中に腕を回して抱き締め返してくれた。

「お帰り、十代君」
「ただいま…遊戯さん」

十代君の存在を確かめるように、俺は何度もブラウンの髪を掻き撫でて、フワリと香るその甘い匂いに顔を埋めた。
肺に目一杯香りを送り込んで、ゆっくりと吐き出す。

「遊戯さん…くすぐったい」

十代君が恥ずかしそうにコロコロ笑う。
ああ、確かにいる。
腕に抱いた温もりも、肺を埋め尽くすこの匂いも、鈴のような愛らしい声も、確かに十代君だ。
気持ちが穏やかになっていく。
結局、そのまま数十分間ほど店先で抱き合って、じいちゃんに微笑ましそうに見送られながら、俺と十代君は二階に上がって行った。

「俺は何か飲み物を持ってくるから、十代君は先に部屋に入って待っててくれ」
「あ、はい」

部屋の扉を開けて十代君が入るのを見届けてから、俺は飲み物を取りに行くべく、再び階下に降りた。
俺は台所に行くと、食器棚からコップを二つ取り出して、冷蔵庫にあったオレンジジュースを注いでいく。
コップを満たしていくオレンジ色の液体を眺めながら、こみ上げてくる喜びを噛み締める。
十代君が帰ってきてくれた。
確か前に彼と会ったのは2週間と1日前だ。
口で言えばたった二週間だが、俺にとっては何年も経ったように感じていた。
十代君が旅立った日の夜にはもう心配で寂しくてたまらなくなり、次の日にはもう廃人になっていた。
相棒や城之内君が大袈裟だと呆れていたが、俺にとっては由々しき問題だ。
ある意味地球が青いなんてことより、重要なことである。
はっきり言って、この二週間は十代君欠乏症に苦しんだ地獄の日々だった。
他のことが一切手につかず、この間あったデュエル大会も終始上の空。
まぁ、きっちり優勝してデュエルキングの称号は守ったが。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ