☆期間限定ss☆

□チョコ×愛=前進?
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思っているのは自分の方ばかりだと思っていた。
だって彼は鈍感で、こちらの気持ちに気付いているのかも怪しかったから。
それでも、自分が彼を大事で、愛しく思う気持ちに変わりはないのだから、今の状況でも満足していた。
だが、その瞬間は不意に彼からもたらされた。



『チョコ×愛=前進?』


久しぶりにサテライトに訪れた十代は、遊星たちのいる集積場に遊びにきていた。
ラリーとナーヴたちに軽く挨拶を済ませ、十代はDホイールを調整している遊星の元へ向かう。
遊星はしゃがみ込んでDホイールにネジのようなものを取り付けていた。
真剣に作業をする横顔にフッと笑って、十代は遊星に声をかけた。

「よ、久しぶり!遊星」
「…!!十代さん!」

突然目の前に現れた十代に、顔を上げた遊星は驚きに目を見開き、ビシッと固まった。
遊星の手から持っていたスパナがカランと落ちる。
沈黙する二人の間に、妙に響いた金属音が広がっていく。

「……?どうしたんだ?遊星」

スパナを持った手の形のまま、こちらを凝視して身動き一つ取らない遊星に、十代は首を傾げる。
おかしい。いつもの遊星であれば、十代がやってきた時は溢れんばかりの優しい微笑みで迎えてくれるのに。
遊星の常と違う反応に、思わず十代も右手を上げたままの体勢で固まってしまう。
戸惑う十代の気配を察したのか、遊星がハッと我に返る。
遊星は十代のことに関しては、機敏に空気が読める男だった。

「あ、いえ!すみません。何でもないんです」

犯してしまった失態に、何をやってるんだ俺は、と自分自身を叱咤して、遊星は立ち上がり十代へと向き直る。
落としたスパナはそのままに、遊星は溢れ出す笑みを抑えることもせず、十代の手を取った。

「お帰りなさい、十代さん」

無事で良かった。元気そうで良かった。帰ってきてくれて嬉しいです。
遊星の一言には、そんな思いが零れそうなほど詰め込まれていた。
それをしっかり感じ取った十代は、遊星の手をギュッと握り返し、嬉しそうに笑った。

「ただいま!遊星」



*****************

Dホイールの調整を終わらせた遊星が工具箱を持って立ち上がる。

「十代さん。すみませんけど、少しここで待っててもらえますか?」
「ん?いいけど…」

地面に座り込んで隣で遊星の作業姿を眺めていた十代も腰を上げて、尻についた砂をパンパンと払った。

「じゃあさ、待ってる間遊星のDホイール触ってていいか?」
「別に俺の許可取らなくても、あなたなら自由に触っていいって言ったでしょう?」
「うん、まぁ…そうなんだけど…」

照れたように頬を掻く十代。
以前にも、彼ならいつでも勝手に触っていいと言ってあるのに。
遊星は苦笑する。
いつもこうだ。Dホイールを触る時、十代はその都度遊星の許可を取る。
遊星本人が何回もわざわざ聞かなくてもいいんですよと言っても、十代は聞くことをやめない。
十代は知っている。理解していてくれる。
遊星のDホイールに込めた思いを。
サテライトの仲間たちが、遊星のDホイールに込める思いを。
だから、十代は決して無断でDホイールに触れることはない。
遊星が何度言おうと、許可を取ることをやめない。
遊星の、皆の、大切なものだと知っているから。
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