☆series over小説☆

□託された未来
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なぁ、あんたの隠してた悲しみを、オレが知ることができていたなら、あんたとオレは…もっと別の未来を生きれていたのかな。



『託された未来』




誰かが呼ぶ声がした。
耳に残って離れない声があった。
なぁ、あんたはどうして…。

「…さいっ。大丈…すかっ、しっかりしてください!」
「…っ!」

誰かが必死に呼ぶ声に、混沌としていた意識が一気にクリアになる。
ハッと目を覚ます。
最初に目に映ったのは、若干赤みがかった一面真っ暗な黒だった。
それが夜に飲まれた空であることに気付くのに、数秒を要した。

「大丈夫ですか?」

ボーっと空を眺めていると、オレを意識の海から引き上げた声が聞こえてきて、緩慢な動きでそちらを向く。
見知らぬ青年の顔がこっちを心配そうに望んできていて、オレは一瞬自分がいる場所が分からなくなり、狼狽した。
誰だ?
オレはてっきりパラドックスがいるのだと思っていたから、見たことのない青年を前にして、戸惑ってしまった。
オレが目覚めたことに安堵したのか、青年の顔が安心したように息をつく。

「少し怪我をしていますね…立てますか?」
「え…あ、ああ…」

青年に言われて、自分の体を見下ろすと、確かにあちこちに小さな傷が出来ていた。
服も酷い有り様だった。
けれどこの程度ならかすり傷だ。
大したことはない。
掴まってくださいと差し出された手を取って、オレはゆっくりと上体を起こした。

「……っ」

起き上がる際に体重がかかった腰に、鈍い痛みが走る。
知っている、この痛みは。
改めて自分がパラドックスにどんなことされてきたのか思い出してしまう。
走った痛みに、反射的に顔をしかめると、青年が慌てて背中を支えてくれた。

「大丈夫ですか?」
「あぁ、すまない…」

壊れものを扱うように慎重に背中へと回された腕は、筋肉質な感触とは裏腹に優しいものだった。
初対面の人間に随分親切なヤツだと、小さく笑みがこぼれる。
もう平気だからと、掴んでいた青年の手を離した。
まだ心配そうに触れていた背中の支えも、焦れったそうに離れていく。

「ありがとう。…ところで、君は?」
「すみません。名乗るのが遅れました。俺は不動遊星といいます」
「遊星…そうか。オレは遊城十代だ」

遊星と名乗った青年から、ここで起きたことを聞いてオレは驚愕した。
遊星の話から、今いるこの場所は、オレが初めてパラドックスと対峙した広場であることが判明する。
けれど、それにしてはおかしい。
見渡した周りの光景は、オレが白いドラゴンから受けた攻撃の爪痕が鮮明に残っているし、一部炎がくすぶっている建物もある。
周囲を取り巻く埃っぽい煤の匂いも、あの時と同じものだ。
パラドックスに連れ去られてから少なくとも数日は経っているハズなのに、今いる空間は自分が戦っていた時となんら変わらなかった。
遊星曰わく、彼はパラドックスに大事なカードを奪われ、それを取り返すため時空を越えて奴を追ってきたが、ここに着いた時にはパラドックスはDホイールというバイクに乗り、別の時代に消えてしまったということだ。
どうしようかと考えあぐねていた時に、広場の真ん中に倒れていたオレを見つけたらしい。
遊星の話を聞く限り、彼も、そしてパラドックスもタイムスリップしてここへやってきたということになる。

『もうこの時代に用はない』

あの時パラドックスはそう言っていた。
遊星が言っていることが本当なら、パラドックスは様々な時代を渡り歩き、デュエリストたちからカードを奪っているということだ。
実際、未来から来たという遊星もカードを奪われ、この時代のデュエリストのカードも次々に消えている。
オレは一連の事件を追ってパラドックスの元にたどり着いたが、まさか別の時代でも同じことを行っていたなんて。
タイムスリップするなんて、非現実的な話だが、異世界にも飛ばされたこともあるオレにとっては、別段驚くようなことじゃなかった。
でも、パラドックスは一体何をしようとしている?
タイムスリップまでして、あらゆる時代に飛んで、デュエリストたちからカードを奪ってパラドックスは何を企んでいるんだ?
深刻に考えていたオレだったが、そんな疑問はすぐに消散されることになった。
パラドックスにカードを奪われたことで、遊星の時代は滅びようとしているらしいのだ。
パラドックスは、デュエルモンスターズの力を使って、過去を、歴史を変えようとしていた。
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