☆series over小説☆

□果たされた再会
2ページ/10ページ

二つの街の狭間で。
望んだ再会は、果たされた。




十代と遊星が出会ったのはサテライトの街の中だった。
猫を助けるために木に登り、落ちてきた十代を受け止めたのは遊星だ。
十代は遊星はイイ奴だと懐き、遊星は十代はお人好しで変わった人だと気にかけるようになった。
同時に、遊星は十代に慕情を感じるようになっていた。
突然、視界に飛び込んで来た赤。
純粋で真っ直ぐな瞳に、強く照らされた世界。
遊星の感じていたものを、ガラリと変えてしまったのは十代だ。
こんなにお人好しな人がいるなんて。
こんなに可愛い人がいるなんて。
こんなに、誰かを愛しいと思う心があったなんて。
十代と出会ってから、気付いたこと。
遊星はそれを心地良く思っていたし、そんな感情を教えてくれた十代に、感謝もしていた。
一つ誤算だったのは、同じ男なのに十代に恋愛感情を持ってしまったことだ。
その感情は、今日も遊星を悩ませる。



「やっぱり可愛いよなぁ…十代さんって」

サテライトにある集積所。
Dホイールを調整するのに最適なその場所で、ハァとため息ながらに呟いた隣の男を、遊星は無言でジロッと睨み付けた。
目は口ほどに物を言う、なんてことわざがあるけれど、遊星は正に言葉の通りだった。
元来彼はあまり口数は多い方ではない分、目が全てを語るのだ。
遊星の視線に当てられた男は、ヒッと少しだけおののいた。

「そ、そんな睨むなよっ…遊星」
「………睨んだ覚えはないが」

ヒクリと口元を引きつらせる男にチラリと一瞥くれて、遊星はまた前方をじっと見据えた。
遊星にとって先ほどのは睨んだのではなく、少し視線を強く険しくしただけなのだろう。
どちらも大して変わりないが。

「ったく…恋する男は恐いねぇ」
「……何か言ったか?」
「いや…何も」

両手を上げて、男…ナーヴは首を振る。
言いました、なんて素直に認めれば、隣にあるキツいつり目の眼力に黙殺されてしまう。

「遊星さ、十代さんのこと好きなんだろ?」

ああ、聞くんじゃなかった…なんて、数秒前の自分を後悔してももう遅い。
猫のような鋭い瞳が、眼光を刺すようなナイフに変えて、こちらをギロリと振り返ってくる。
痛い。心臓が縮んでいく。


「…だったら、何だ」

おや、と、ナーヴは眉を上げた。
てっきり、寝言は寝て言えとバッサリ切り捨てられるかと思っていたのに。
何を考えているかよく分からないが、遊星という男は存外自分の気持ちには正直だ。

「いや〜、告白とかしないのかなぁと思って…まだ言ってないんだろ?」
「……言ってどうなる」

体はナーヴに向けたまま、遊星の瞳だけが視線を移す。
移った先にはDホイールで遊び、ラリーと一緒にじゃれ合う十代。
日の光さえ入らないこの場所で、十代の笑顔だけが全てを照らす太陽のように見えた。
十代を眺める遊星が、眩しそうに目を細める。
それは太陽を仰いでいるようであり、愛しい者を見るような眼差しだった。
ナーヴは苦笑する。
無表情、無口、無関心。
無の三拍子が揃ったようなこの青年が、あの少年のこととなると感情を表に出し、慣れないながらも言葉を紡いで、興味を示す。
ただ知らなかっただけかもしれないが、いつも眉間に皺を寄せている遊星の、年相応の姿に笑みが零れずにはいられない。
確かに十代という少年は、とても気さくで誰にでも優しい。
ネオ童実野シティの人間は、サテライトに住んでいる自分たちを卑下して見下してくることが多々あるのだ。
けれど、十代は全くそういった偏見を持たずに、マーカーが付いているラリーとも仲良くしてくれている。
滅多に、というより全く人に心を開かない遊星がこんなに懐くのも頷けてしまう。
そこで、ハタッと気づく。

「そういえばさぁ、前々から思ってたんだけど…十代さんってどうやってサテライトに来たんだ?あの人ここの人間じゃないよな?」
「…………」


ナーヴがポツリと漏らした疑問に、遊星は応えなかった。
否、応えられなかった。
彼は何故、こちら側に入って来られた?
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ