☆series over小説☆

□この気持ちにふさわしい名を
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赤い服に身を包んだ、小柄な人が落ちてくる。
紛れもなく、今まで遊星が見ていた人だ。
受け身も出来ず、体を丸めて、ただ落下していく。
遊星は反射的に足を踏み出す。
考えている暇などない。
慌てて腕を伸ばすと、タイミング良くその体はドサッと降ってきた。
そんなに重くはなかったが、衝撃が大きすぎたのか、遊星は小さな体を受け止めたまま尻餅をつく。

「………っ」

腰に走った痛みに顔を歪めるが、抱えた人は離さない。
怪我を、していないだろうか?
ふっと我が身より気になり、遊星は腕の中に視線を落とした。

「―――…っ」

ぶつかった視線に息を飲んだ。
遠くから見つめていたブラウンの瞳は、すこし驚きながらこちらを見つめていた。
透き通りそうなほど、美しい目をしている。
頭の芯が痺れるような感覚。
一気に高まり出した鼓動に、遊星は戸惑った。
言葉が出ない。声を発っせない。
だが、沈黙を破ったのは相手の方だった。

「あ……お、お前怪我してないか!?」

焦ったように腕や胸やを触って確認される。
手も…小さい。
そんなことを思いながら見つめていると、心配そうに上目遣いで見上げられた。
「あの…?本当に大丈夫か?」

コテンと首を傾げる仕草に、また動悸が早くなる。

「ああ…何ともない…」

数秒の間を置いて、やっとそれだけ答えられた。
すると、安心したように息を吐かれる。

「そっか。良かった」

ニコッと笑顔を向けられ、今度は心臓が止まったかと思った。
ドキドキドキドキ。
良かった。どうやら動いている。

「あんたは…怪我、ないか?」
「うん。お前が受け止めてくれたから全然平気。ありがとな」
「いや…」

ニコニコと笑う人。
何でそんなに嬉しそうに笑えるんだろう?

「わっ…!おい、ちょっと待っ…」

ピョンッと何かがその人の腕から飛び出した。
黒い物体。

「猫…?」
「あ!あ―っ…逃げられた」

黒い物体は猫だった。
猫は着地を決めると、こちらを振り向きもせずに道路を渡って行ってしまう。
去っていく猫を寂しそうに見つめる人に、ようやく合点がいく。

「もしかして、猫を助けるために木に登ったんですか?」
「え?ああ、うん。なんかにゃーにゃー鳴いてたし、可哀想で…」

苦笑いをするその人。
おかしな人だ。

「別に放っておけば良かったでしょう?あなたの飼い猫でもないのなら…ここを通った人間だってそうしたハズだ」

猫一匹のためにあんな危ない真似をするなんて、信じられない。
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