☆series over小説☆

□変わらないキミ、苦悩するボク
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歓声は止み、静まり返った会場で、男の愉快そうな笑い声だけが響き渡る。

『何がおかしい!?』

この、絶対的な攻撃力を持つモンスターを前に、己の敗北が決まっているこの状況で。
何故、笑っている。
ヨハンのぶつけた疑念に、これまで一言も喋らなかった男が、仮面の下で答える。

『待っていたのだよ、ヨハン・アンデルセン……お前がそのカードを召喚する、この時を!』
『何っ!?』

男が一枚のカードを掲げた。
何も、描かれていない、白紙のカードを。

『な…っ!?』

何だ、あのカードは。
会場がざわざわと喧騒に包まれる。
男の意図が分からず、呆然とするヨハンの目の前で次の瞬間、驚くべきことが起こった。
男が出した白紙の一枚から、無数のカードが飛び出し、連なったカードの束が、レインボードラゴンの体へと繋がれたのだ。
まるで鎖のように。

『な、何だコレはっ』

レインボードラゴンが苦しそうに呻きを上げる。
目の前で起こる不可解な現象にヨハンが驚愕し動けずにいると、レインボードラゴンは光の球体に凝縮され、そして。

『何…っ!?』

束になったカードに吸い込まれるようにして、レインボードラゴンは男が掲げた白紙のカードの元へと吸収されてしまった。
ヨハンがバッとデュエルディスクを見れば、そこにはレインボードラゴンの姿が跡形もなく消えたカード。

『お前のカードは頂いたぞ、ヨハン・アンデルセン』
『貴様…ッ!!』

憤り拳を握るヨハンに、男は不適な笑いを零し、自らの手札から一体のモンスターを召喚した。
星屑を散りばめた、真っ白なドラゴン。

『何だ、このモンスターは……』

見たことのないモンスターに呆然とするヨハンを余所に、そのドラゴンは男の合図と共に会場中を攻撃し始めた。
ドラゴンの口から放たれた光の砲撃が、観客席の壁や会場の天井に直撃する。

『な…ッ、ソリットビジョンじゃないのか!?』

轟音を伴って抉られた壁と、ガラガラと崩れ落ちてきた天井に、会場中が悲鳴に包まれた。
パニックになった観客が混乱し、逃げ惑う中、仮面の男がくるりと背を向ける。

『待てッ!!』

激しい轟音と絶叫に支配された空間でヨハンが張り上げた声に、男は足を止めた。
仮面に覆われた横顔だけが、ヨハンを振り返る。

『安心したまえ。君のカードだけでは、この時代を消滅させる要素にはなりえない』
『消、滅…だと?どういうことだ!?』

ヨハンが問うが、男はもう興味をなくしたとでも言うように再び背を向けて歩き出す。

『待てっ!!』

追い縋ろうとするヨハンの前に、崩れた天井の破片が降ってくる。

『く…っ』

寸での所で落ちてきた瓦礫を避けたヨハンの耳に、静かで不適な男の声が届く。

『残るは、彼の持つネオスだけだ…それで、この時代での私の目的は遂行される』

塵埃に視界を遮られ、次に開けたヨハンの目には、男の姿が映ることはなかった。
謎の男はヨハンのカードと共に、騒乱と崩壊の中、姿を消してしまったのだ。
不穏な言葉だけを、ヨハンに残して――――。

昼間の出来事を思い出し、ヨハンは苦く唇を噛んだ。
あの騒乱の後、観客、運営者ら共々無事に会場から逃げ出し、ヨハンも自力で脱出することができた。
怪我人は出てしまったものの、建物がほぼ半壊状態だったのにも関わらず、死者が出なかったのは奇跡だろう。
救急隊や消防が駆けつけ、警察も出動して騒然とする現場からすぐさまヨハンは抜け出し、街中の人間に聞き込みをしながら仮面の男を探し回った。
日が暮れるまで街中を駆けずり回ったが、収穫はゼロ。
唯一手に入れた情報といえば、すでにヨハンも知っていたありふれたもの。
近頃、仮面を付けた謎の男にヨーロッパ各地のデュエリストが次々と襲撃されているという事件。
その情報は勿論、ヨハンの母国でも連日テレビや新聞で報道され、国中のデュエリストを震撼させていた。
ある国では懸賞金がかけられ、指名手配までされていると聞く。
そんなヨーロッパ中で騒がれている人間が、まさか公の場に堂々と乗り込んでくるなどと、誰が想像できただろう。
しかも、プロデュエリストを語ってまで、公式の試合に現れるなどと。
ヨハンも、予想だにしていなかった。
だから、デュエリスト襲撃事件も犯人の特徴も事前に知っていたにも関わらず、パラドックスが現れた時、何の疑念も抱かずすっかり油断してしまっていたのだ。
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