☆series over小説☆

□変わらないキミ、苦悩するボク
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いつでも一人で無茶をするヤツだった。
俺を助けるため異世界へ来た時も、アカデミアの皆と世界を救うため戦った時も。
一人で全部背負いこんで、こっちが心配するのもお構いなしに。
辛くたって、苦しくったって、大丈夫だと笑って。
頼ればいいのに、一人で抱え込んで。
不器用で、強がりで、けれど誰より人を大切にする、お人好しなヤツ。
卒業の時だって誰にも黙って一人、旅に出てしまった。
お前の何ものも恐れないせの真っ直ぐさと、無謀にも似た果敢さはとても好きなのだけれど、俺としては気が気じゃない。
どっか抜けてて、危なっかしくて、捕まえてないとすぐどっかに行っちまう。
いつも無茶ばっかりするヤツだった。
なあ。俺が未だに遠く離れたお前を、異国の地で飽きもせず毎日想っているなんて、きっとお前は知らないんだろうな。









「クッソー!」

古い歴史を色濃く残す街のあるホテルの一室で、ヨハンは力の限り叫ぶと、バフンとうつ伏せにベッドへと身を投げた。
体を受け止めてくれたスプリングは程良く重さを吸収し、すぐさま弾力が復活する。
さすがはプロリーグの協会があてがってくれたホテルだ。ベッド一つを取っても一級品……なんて、感心している余裕も気力も、今のヨハンにはなかった。
嫌にサイズの大きい枕に顔を埋めて、深く長いため息を吐き出したヨハンに、相棒の精霊が頭に額を擦りつけてくる。

『ルビ……』
「ん…?ああ、ルビー…ありがとう」

枕から顔を上げ、心配そうに側に寄ってきたルビーの首元を、ヨハンが指で優しく撫でてやると、しゅんぼりと垂れ下がっていたしっぽがくるんと復活して、クスリと笑みを零す。
ひとしきり撫でてルビーが満足する頃、ヨハンはおもむろに腰のデッキホルダーに手を伸ばし、カードを一枚抜き取った。

「結局…手掛かり掴めなかったな……」
『ルビ……』

またしょんぼりと元気をなくした相棒と一緒に眺めた先には、一枚の、白紙のカード。
いや、白紙、というには語弊があるかもしれない。
カードには色がある。
ただ、その中央にいるハズのモノがいないだけで。
そういう意味では、ヨハンにとっては手の中にあるカードは“白紙”に等しいものだ。
ヨハンのカードから、エースモンスターであるレインボードラゴンの姿が消えていた。否、奪われた。
突如現れた、一人の仮面の男によって。

ことの発端は数時間前に遡る。
プロリーグの試合のため、ヨハンが母国を離れこの国を訪れたのは昨日の夜のことだった。
母国のプロリーグで順調に連勝記録を更新していたヨハンの名は、ヨーロッパ中に広まっていき、度々他国のプロデュエリストとの親善試合にと招待されていたのだ。
今回も、近隣の国の招請を受けての訪問だった。
試合は今日のお昼、プロリーグ会場での開催。
他国からのプロデュエリストが親善試合に来ると聞きつけて、国中から観客が押し寄せ、会場は超満員。
最初は観客の数に圧倒されていたヨハンだったが、注目されると俄然やる気が出るぜ!と興奮と情熱に燃えて対戦相手の登場を待っていた。
相手は、すぐに現れた。
演出にと炊かれたスモッグの向こうから。
白と黒のみで配色された、奇妙な仮面を付けて。
現れた自国のプロデュエリストの奇怪な風貌に、会場が騒然とする中、両者の名前と共に試合開幕が高らかに宣言され、デュエルは開始された。
ヨハンはこの時対戦相手のパラドックスという男のことを、奇抜でおかしな奴程度にしか認識していなかったのだ。
だから、油断した。
フィールドに一体もモンスターを召喚せず、トラップと魔法カードだけで攻撃を凌ぐ相手を怪訝に思いながらも、防戦一方の男にターンを重ねたヨハンの手札に、宝玉獣が揃う。
自分の攻撃をのらりくらりとかわしてライフを残していた相手に、一方的で進展しないデュエルに飽き飽きしていたヨハンは、次の一撃で終わらせてやると、意気込んでレインボードラゴンを召喚した。
呼び出された究極と謳われる七色の光を放つドラゴンの美しさに、会場中からため息と歓声が上がる。
ヨハンが勝利を確信し、不適な笑みを浮かべた時、対戦相手の男が会場を覆う歓声を割り裂くように、突然高笑いを上げた。
仮面の下からでもはっきり聞き取れる程、高らかに。
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