裏★小説

□凄艶の宴
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出掛ける時は必ず誰かに声をかけていくこと。
夜出掛ける時は絶対に誰かに付き添ってもらうこと。
いつの間にか仲間内で成り立っていた対十代用の暗黙のルールは、口が酸っぱくなるほど念を押されていた十代の頭に、嫌でもインプットされていた。
だから、十代は散歩でも行こうかと思い立った時、まっ先にガレージを見渡して仲間を探したし、そういえば今日は皆帰りが遅くなるということを思い出してからは、出掛けるのを断念しようともした。
勝手に出掛けて過保護すぎる彼らにお説教をされるのが嫌だったのもあるが(実際一度やらかして怒られた)、何より大事な仲間に心配をかけたくないという思いが十代の中にあったのだ。
けれど、それでも、人一倍どころか十倍は好奇心が強い十代は我慢しようとすればする程、外の世界で待っているであろう夜特有のワクワクする光景を想像してしまい、余計に出掛けたいという衝動が募っていき…。
元来、忍耐とか待つという行為がデュエル以外ではまったく発揮されない厄介な性格も災いして、まぁちょっとぐらいなら大丈夫だろと、置き手紙だけを残して出掛けてしまったのだ。
ほんの30分ほどの散歩の予定だったので、皆が帰ってくるまでにはガレージに帰れるだろうな、という十代の甘い算段は、街に来ていた期間限定のシュークリーム屋の販売車に見事なまでに狂わされた。
甘い物好きな十代が目を惹かれるのは至極当然で、しかも彼は世渡り術に長けていたので、シュークリーム屋の販売員ともすぐ仲良くなり、うっかりおまけまでしてもらったのだ。
結局、数十分程度で終わるハズだった散歩は、シュークリーム屋との長話で大幅に時間オーバーし、初めは慌てていた十代は早々に走ることを諦めた。
どうせ怒られることは目に見えているし、それに走ってせっかく買ったお土産がぐちゃぐちゃになってしまうのも勿体ない。
本音の所は、お説教されるまでの時間稼ぎなのだが。
誰だって、自分にとって嫌なことが待っていると分かっていれば、足取りは重くなってしまうものだ。

「やっぱ怒られるよな―…」

未だ月を仰いだまま、十代は溜め息を漏らした。
一応手土産という賄賂は持っているが、それで許してくれる程、遊星たちは甘くない。
彼らの異常な過保護さも、十代を大切に思うが故の反動感情であるのだが、十代本人にはいまいち伝わっていないのが悲しい所だ。

「ああ―…ヤだなぁ」

さっきよりも深い深い溜め息をついて、十代はガックリと肩を落とす。
その時だった。
十代の耳に、ガサガサと葉っぱが擦れるような音が届いたのは。

「…?何だ?」

十代は音が聞こえた方向へと視線をやる。
どうやらいつの間にかだいぶ歩いていたらしく、公園の前まで来ていたようだ。
音がするのは、公園の中にある雑木林のように木々や草が生いしげる茂みの中。
噴水のあるこの公園は遊星たちが借りるガレージから近い所に位置するため、十代もよく通っていた覚えがある。
昼間はそれなりに人々で賑わう公園内は、今はひっそりと静まり返り、設置されたていた街灯の明かりだけが、十代にとって唯一の自分以外の生命体に見えた。
知っているはずの場所なのに、異空間に姿を変えている様相に、十代は無意識に唾を飲み込み、手に持っていた紙袋を強く握る。

―――ガサガサッ、カサ…。

「……ッ!」

夜の公園の不気味な雰囲気に飲まれ、硬直していた十代は、再び聞こえてきた音にビクリと肩を跳ねさせた。
十代は公園の入り口で立ち尽くしていた足を何とか踏み出し、奥に潜む茂みへと歩を進める。
肌に当たる風が、夜道を歩いていた時よりも生暖かく感じて、十代は僅かに身震いした。
時折立ち止まってしまいそうになる足を何度も叱咤して、普段より二倍近くの時間をかけて、ようやく茂みの入り口まで辿り着く。

「だ、誰かいるのか…?」

生い茂った草木のせいで、更に濃い闇の色に沈む空間を覗き込みながら、十代は恐る恐る声をかける。
本当なら十代はこんな不気味な所を一刻も早く立ち去りたかったし、早くガレージに帰らなければとも思ったが、場所が公園ということもあり、もしかしたら誰か人が気分でも悪くしてうずくまっているんじゃないかと危惧してしまい、こんな所まで足を踏み入れてしまった。
困っている人間を放っておけない彼のお人好しさが、この時ばかりは災いする。

―――ガサガサガサッ!

「―――ッ!!」

何かがものすごいスピードで近付いてくる。
激しくなった葉擦れの音がそう物語っていた。
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