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今日は特別な日。
世界中を旅している彼が、数週間振りに日本に帰ってくる。
そして、もう一つ、大切な行事がある日でもある。
だから俺は、朝、相棒が目覚めた瞬間、土下座する勢いで今日1日体を替わってくれと頼んだ。
まだ寝ぼけ眼だった相棒はだんだん意識が覚醒してきたのか慌て出すと、とりあえず俺を立ち上がらせる。
あまりにも俺が真剣に頼んだせいか、相棒は詳しい事情を聞かず、苦笑いしながら分かったよと快く承諾してくれた。
朝食の時、いつもの相棒ではなく、もう一人の俺が二階から降りて来たことにじいちゃんは驚いていたが、「今日は特別な日なんだ」と言うと、そうかそうかと笑って、ご飯を大盛につけてくれた。
正直、キツい。
だが、じいちゃんの好意を無駄にすることは出来ない。
俺は無理やりご飯を掻き込んだ。
通常より倍の量の食事はやはりキツかったのか、自分の部屋に戻ってきた今も少し腹が苦しかった。
それでも、そんな体の現象すら気にならないほど楽しみなことが、これからやってくるんだ。
俺はベッドの縁に腰かけ、手の中にある箱を眺めながら笑みを浮かべた。

『なるほどね。君が昨日いきなり体を替わってくれって言って外に飛び出してったのも、それのせいだったんだ』
「相棒…」

相棒がフッと姿を現し、後ろから俺の手にある箱をマジマジと覗き込んでくる。

「もしかして…十代くんに?」
『何で分かったんだ?』

驚かそうと思って、相棒には今日十代君が訪ねてくることは内緒にしてたハズだが…。
逆にこちらが驚いていると、相棒がクスリと笑った。

『ふふ…そりゃあ分かるよ。だってキミ、十代君のこと考えてる時は、いつもと違ってすごく優しい顔してるもん』

もしかして気付いてなかった?といたずらっぽく言われ、俺はポツリと気付かなかったと返した。
相棒がまたクスクスと空気を震わせる。
俺はそんなにあからさまだったか?と悩みながら、昨日買った十代君へのチョコを見つめた。
実は今日がバレンタインだと思い出したのは昨日の夕方、相棒と一緒にテレビを見ていた時で、ニュースの合間にやっていたバレンタイン特集番組を見て、十代君が帰ってくることに浮かれてすっかり忘れていた俺は、慌ててチョコを買いに走ったのだ。
昨日はちょうど週末だったこともあり、駆け込んだ洋菓子店には女の客がごった返していた。
そんな中、男が一人でバレンタインのチョコを買うなんて、正直罰ゲーム並みの恥ずかしさだったが、十代君ためと考えれば、恥など掻き捨てることが出来た。
王道のチョコから、有名ショコラティエが作った高級チョコ、今年限定のレアな品もあった中、俺が選んだのは色とりどりの鮮やかなチョコが並んだ少し大きめの箱。
目を惹かれたのはその中に真っ赤な色のハート型のチョコがあったからであり、俺が求めていた要素が詰め込まれたチョコだったからだ。
これを渡した時の、そしてこれを食べた時の十代君の反応を想像して、思わず笑みが零れる。

『もう一人のボクはどんなチョコ選んだの?』
「ん?ああ…」

優しい笑みを湛えながら尋ねてきた相棒に、俺はチュッと赤い包装紙に包まれた箱にキスをして、ニヤリと口元を歪めた。

「全種類酒入りの、高級チョコレート」
『…っ!?』

相棒がギョッとする。
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