☆期間限定ss☆

□☆Sweetハート
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海馬瀬人はその日、朝から気が気じゃなかった。
朝一で会議がある部屋を間違え、書類にサインをしていれば名前の欄に『海馬十代』と書いてしまったり、何もないところでつまづいたりと、普段の彼からは想像もつかないほど失態を繰り返していた。
側近のような立場の磯野はひどく心配し、廊下ですれ違う部下たちからも怪訝な視線をもらう始末。
けれど仕方ない。
今、海馬瀬人の頭にも心にも、一人の少年のことしかないのだ。
可愛い可愛い恋人、遊城十代のことしか。
それもこれも、今日という日のイベントと、恋人、十代の無自覚さが原因であった。
今日、2月14日は海馬にとって魔のバレンタインだ。
別に彼が女性からのチョコレート攻めに合うからではない。
毎年、取引先のお嬢様や女社長、権力や財力目当ての女性があからさまな色目でチョコレートを贈られるが、海馬は今までの人生で一切受け取ったことはない。
もらったことがあるのは唯一の家族である弟木馬と、大切に思っている十代からのチョコレートだけだった。
海馬にとって、初めて他人からのチョコレートを受け取ったのが十代だ。
その十代が、目下、問題だったりする。
恋人の十代はとても鈍感だ。
自分が周りからどう思われているのか、全く分かっていない。
気付いていない。
元から周りの目を気にしないというか、そんな寛大なところがいいところなのだが。
とにかく、十代は周囲からの明らかなアプローチにも気付かない鈍感なのだ。
話を聞いているだけの海馬ですら十代を想っている男たちの気持ちに気付くのに。
けれどそれでめげるような男たちではないらしいのだ、アカデミアの生徒たちは。
十代の鈍感で天然なところがまたいい!可愛い!などと、想いを寄せる輩は増える一方だ。
そんな男たちが、今日という日に十代を放っておくハズがない。

『Sweetハート』

「あのバカは…また追い回されているんじゃないだろうな…」

去年の出来事を思い出して、海馬はこめかみを指で押さえた。
今日はまともに仕事にならなかった彼は、アカデミアに帰ってきてからもずっと十代のことを考えていた。
彼は先程からずっとオーナー室で、同じ場所を何回も何回も何っ回も、絶え間なく行ったり来たりしている。

「……やはり迎えに行った方がいいんじゃないのか?」

海馬は珍しく悩んだ。
目の前に邪魔する障害があれば粉々に吹っ飛ばし、自分が決めたことは世界の真理だとでもいうように、必ず即行で実行する海馬にしては、悩んでいた。

「迎えに来なくていいと行っていたが…」

実は前日に、海馬は十代に、明日は学園に行くなと言った。
目に見えて危険だからだ。
去年のこともあるし、海馬は十代を自分の手元においておきたかった。
だが。

『大丈夫だって!本当に瀬人は心配性なんだからさ』

なんて、過保護過ぎだよ、と笑われてしまった。
お前は1年前のあの惨劇を忘れたのか!?
海馬はそう問いつめたかった。
去年のバレンタイン、十代は学園中の生徒たちにチョコを迫られ、1日中追い回されたのだ。
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