☆series over小説☆

□この気持ちにふさわしい名を
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最近気になる人がいる。
いきなり視界に飛び込んできたその人は、俺の世界を色鮮やかに染め上げた。



『この気持ちにふさわしい名を』



昼下がりの公園。
一人ベンチに座って、遊星は待ち人をしていた。
愛用のDホイールは少し離れた噴水の側に止めてある。
天気がいい。
じんわりと暖かい光を注ぐ太陽を仰いで、遊星はフッとある人を思い浮かべた。
似ている、とても。
色褪せた世界に、現れた鮮やかな赤。
世界はこんなものだと、冷めた目で闇を見つめていた心を、強烈に照らしてきた光。
似ている、あの人に。

『お前ってさ、イイやつだな!』

屈託なく笑ったその太陽に、どれだけ救われただろう。
初めて出会ったのは、街の中だった。
変わらない日常、退屈な風景。
そんな世界の中に、あの人はいた。
行き交う人々が通り過ぎる中で、一本の木を心配そうに見上げていたその横顔に、どうしようもなく目を惹かれたのを覚えている。
他人には興味はない。
自分にはそういう性質があると分かっていたし、それで今まで生きてきた。
なのにどうしたことか、大きなブラウンの瞳にある強い光に目が逸らせなかったのだ。
道路脇でDホイールのエンジンを止めて、しばらくボーっと様子を眺めていると、その人はいきなり見上げていた木に登り始めた。
ギョッとしている間に、その人はヒョイヒョイと身軽に幹を登り切り、木の一番高い所の枝の上で動きを止める。
何をしているんだ…?
今いる位置からは、木に生い茂る葉っぱのせいでその人が何をしているのかはよく見えなかった。
遊星は木に近づこうと、Dホイールのエンジンを掛ける。
何故こんなにもあの人のことを気にしているんだ…。
車体を進めながら、遊星は自問自答する。
不思議だ。
自分のこの気持ちも、そうさせるあの人の存在も。
木の根元の手前でブレーキをかける。
エンジンを切り、Dホイールから降りると、肩にヒラヒラと葉っぱが落ちてきた。
無言で葉っぱを手に取った、その刹那。

「うわああぁ―っ!」
「!?」

上から降ってきた叫び声に、遊星はバッと顔を上げた。
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