☆special短編☆

□相互、接続
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目の前に広がる青い空。
眼下に横たわる果てしない海。
梅雨も終わり、太陽が照りつける日差しは、日に日に強くなっていた。

「うお――!すっげ――っ!海がキラキラしてる!」

興奮を隠しきれない無邪気な声。
ガラス窓に張り付いて楽しそうに足元に広がる海を眺めるその姿を見やって、海馬はフッと笑みを浮かべた。

「そんなに海を見るのは楽しいか?」

手元のキーボードを叩いていた手を止め、子供のようにはしゃぐ背中に声をかけると、身を乗り出して眼下の海を眺めていた十代が笑顔のまま振り返る。

「うん!あ…じゃなかった。はい!オレ、ヘリに乗ったの初めてで。アカデミアに入学する時に飛行機なら乗ったけど、こんなに海が近くに見れなかったし、それにすげー綺麗だから」
「そうか…」

ニコニコと本当に嬉しそうに笑う十代に、海馬の頬も例外なく緩んでいく。
今日が晴れで良かった。
雨が降ろうとヘリは飛ばせるが、天気でなければこんな笑顔の十代は見れなかっただろう。
再び窓に手を付いて海を眺め始めた十代の横顔を見つめながら、海馬は微笑んだ。
そう、目下海馬と十代はとある場所を目指して、ヘリで移動中であった。
ことの発端は、三日前の海馬の一言である。



「十代、今週の土曜日に予定を空けておけ」
「へ…?」

恒例となったオーナー室での逢瀬。
もはや習慣と化した海馬からのお土産のケーキを食べていた十代は、フォークの先を咥えたまま、キョトリと首を傾げた。

「そうだ。朝から空けておけ…それとも、何か用事があったか?」
「あ…いえ、そういうわけじゃないんですけど」

土曜なら授業もないし、特に誰とも約束があるというわけでもないから、暇なことは暇なのだが。
用事があるといった所で、果たして目の前の彼は引き下がってくれるのだろうか。
十代は唇の間に挟んでいたフォークを残り半分になったケーキが鎮座している皿に置いて、デスクでパソコンに向かっている海馬を見つめた。
ここしばらく会社に入り浸ってアカデミアに姿を現さなかった海馬は、約三週間振りにようやくこうして会えたというのに、十代そっちのけで持ち込み仕事をしている。
十代も海馬の立場の大変さは知っているし、そんな忙しい中わざわざ孤島のデュエルアカデミアまで来てくれるのだから別段不満を抱いてはいなかった。
こうして、何回かの秘密の面会を重ねていく内に、十代は微々たる程度ではあるが、海馬瀬人という男の人格を把握しつつある。
最初こそ、憧れの人ということで、とてもまともに観察する余裕などなくテンパっているばかりだったが、ようやく普通に接することが出来るようになってきた最近、十代は気付いたことがあった。
海馬は基本的に優しい。
口調こそ命令的で強引な所もあるが、それは彼が不器用で、素直になれない性格だからだということを十代は十分理解していた。
何より、彼は口先だけの甘言より、行動で優しさを示してくれる。
だから、盲目していたのかもしれない。
海馬が本来、唯我独尊、傲慢不遜な俺様人格であることに。
ある時は授業そっちのけで呼び出され、ある時は強制罰ゲーム(キス)をされ…。

(嫌だって言ったのにお姫様だっこしてくるし、膝の上でケーキ食べさせられたり、強引にキス…だってされるし…)

こちらの都合などお構いなしの、暴虐無人な所業の数々。
大して気にもしていなかったが、例の恋愛相談人・明日香に「相手はずいぶんと俺様キャラなのね」と指摘されてから、そういえば強引な性格ではあるかも…と、そこでやっと至ったのだ。
そんな経緯と、思い返してみた彼の振る舞いを統合すれば、用事があったとしても華麗に要因を一掃されてしまうんだろうな、というのが十代の得た対海馬用の経験値である。
十代にしてはいろいろと思考を巡らせていると、見つめていた海馬が怪訝そうな視線を寄越してきた。

「どうかしたか?」
「い、いえ!別に…あの、でもいきなりどうしたんですか?朝から空けておけなんて」

今まで会うのは夜の数時間足らずで、稀に昼間ということがあったが、朝から、なんて珍しい。
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