●お題SS●
□待て。それはフラグだ
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自分でいうのもなんだが、俺のもう一つの心である主人格は、自覚というものが足りていない。
アイツの周りのバカな人間どもは、天然だのそこが可愛いだのとほざいているが、苦労するのは俺なのだ。
たまに思う。何故、よりにもよってコイツのもう一つの人格として生まれてしまったのかと。
「ヒマだなー…」
校舎の屋上で寝転がる十代が呟く。
なら授業に出ればいいだろう、と言いかけてやめた。
自爆するだけだ。
前にテストだからどうだのと言われ、無理やり表に出させられ、答案用紙に向かうハメになった。
今の時間は確か午後の最初のテストが行われているハズだ。
授業に出るようけしかけて、被害がこちらに降ってきてはたまらない。
面倒事が嫌いなのは俺も同じだ。
「はおう―、ひまだ〜…」
だが、いくらこちらが厄介事から回避しようと、向こうから持ってくる場合がある。
『俺に言ったってどうしようもないだろう。デッキでも組み立てていたらどうだ?』
「それはもうさっきやったぜ〜…」
俺の投げやりな返事を不服に思ったのか、十代は仰向けの状態から起き上がり、こちらを上目遣いでジッと見つめてきた。
そして、唇を尖らせて一言。
「覇王のケチ」
『な…っ』
今の会話の脈絡で何故そうなる!?
しばし呆然としていると、十代はフイッと視線を逸らした。
「翔や明日香たちなら、オレがヒマって言えば相手してくれるのに。万丈目だってデュエルしてくれるし、剣山だっていろいろゲーム持ってきてくれて、ヨハンなんか…」
『もう分かった!相手をすればいいんだろう!?相手をすればっ』
頼むからそれ以上リストアップするな。
半ばヤケになって叫ぶと、十代はニッコリ笑った。
「そうこなくっちゃ!」
この無自覚小悪魔め。
「ほら、覇王。早くはやく!」
自分の座っている向かい側のスペースをペチペチ叩きながら、催促する十代。
『まったく…』
誰だ。コイツをこんなに甘やかしたのは。
まぁ、答えなど聞かずとも分かるが。
ため息をつきながら、ドカッと十代の向かいに腰を降ろす。
『で、何をするんだ?』
「デュエルに決まってるだろ!覇王もデッキ出して」
『………』
バカだバカだとは思っていたが、ここまでとは…。
半目になって改めて主人格のバカさ加減に呆れていると、デッキをシャッフルしていた十代にキョトンと首を傾げられる。
「どうしたんだ?」
『…俺にデッキはないぞ』
「え!?なんでっ!?」
お前の方こそ“何で”だ。
『俺のデッキはお前のデッキだろう』
「あ…」
あ…じゃない、あ…じゃ。
『それにお前が表に出ている以上、俺には実体がない。カードに触れるハズがないだろう』
「う…」
追い討ちをかけるようにそう言うと、十代がシュンとうなだれる。
胸の辺りがズキズキ痛むのは気のせいだ。
「そうだったよな…ごめん。忘れてたぜ」
頬を掻きながら、十代が寂しそうに笑う。
また、胸の辺りが痛んだ。これは、気のせいなんかじゃない。
『十代…』
笑っていても、心が繋がっているから分かる。