◎拍手ログ◎

□遊星×十代(2008年拍手ログ)
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例えば。
顔を見るだけで、熱くなる頬だとか。
目を合わせるだけで、上手く言葉が紡げなくなるだとか。
指先に触れただけで、壊れそうなほど鼓動を刻む心臓だとか。
感情を上手くコントロール出来なくなっている俺に、あなたは気付いているだろうか?




灰色によどんだ空から降ってきた冷たい粒は、容赦なく地面を叩きつけていた。
白く煙った視界に、けれどいつも見ている街となんら変わりない風景だと思う。
この抑圧された世界は、どこまでもモノクロだ。

「うわ〜っ。本格的に降って来たな―」

うわ〜と言いつつ、どこか呑気な声音を発する隣の人に目を向けた。

「予報、外れましたね」
「本当だぜ。今日は午後から快晴になるでしょうなんて言ってたくせに!」

眼前に落ちてくる雨粒を睨み上げながら、十代さんは不満そうに唇を尖らせた。
俺より年上なハズなのに、幼い仕草をする彼に、ふっと笑いが込み上げる。
今日は朝からどんより曇天で、ここしばらく雨続きだった天気に、昼から降るかもしれないななんて予想をしていた時だった。
ブラウン管から流れる天気予報を見ていた十代さんが、弾んだ声を上げたのは。
『遊星!今日昼から晴れるってさ!』
数日間外に出られず機嫌が悪かった十代さんは、散歩に行ってくると言い出したのだ。
一人では危ないから一緒に行きますと言うと、十代さんは誘うつもりだったとニッコリ笑った。
俺と一緒に散歩に行くことを決定していた十代さんに嬉しくなって、午前中は軽快にDホイールの手入れをして時間を潰した。
昼食を終えて外に出た時は、まだ空は曇り。
それでも、昼から晴れるんだから大丈夫だってと駆け出した十代さんを追った。
しかし、歩き始めて数十分後、バケツをひっくり返したような勢いで雨が降ってきた。
結果、近くの廃墟となった建物の軒下に雨宿りする羽目になったのだが。

「ごめんな遊星…遊星は雨降るって言ってたのに、無理矢理連れて来ちゃって…」

十代さんの濡れた前髪が額に張り付き、一層シュンと落ち込んでいるように見える。

「気にしないで下さい。俺も好きで付いて来たんですから」

無理矢理連れて来られたなんて微塵も思っていない。
ただ、外の世界を走り回るあなたが見たかっただけなんですから。
それに、危なっかしいあなたを一人に出来るハズもない。
大丈夫ですよ、と十代さんの頭を撫でようとした手を、ピタリと止める。
しばらく宙をさまよって、結局伸ばした手は元の位置に戻される。
情けない。
このちっぽけな手のひらは、落ち込むあなたを励ますことすら出来ない。
触れたいのに、心の中の臆病などこかが、頭の信号を遮ってしまう。
触れたい。でも触れられない。
歯痒い気持ちが、胸の辺りで疼く。
不甲斐ない自分を痛感する俺に、十代さんは嬉しそうにありがとうと告げてくれた。

「遊星黙ってばっかだからさ、もしかして怒ってるのかなーって心配してたんだ」
「そんなっ」

ことないです、とまでは言葉に出来なかった。
トンっと、肩に重みがかかる。
フワリと鼻腔をくすぐったシャンプーの香りに、十代さんが自分に寄りかかって来たのだと気付く。

「じゅ…十代、さん」

焦りと戸惑いが声に滲む。
左半身にくっ付いてきた体温に、一気に体中の血流が回り始めた。
もしかしてこれはあれだろうか。
頬を赤く染めた十代さんが、もう少しこうしていたいんだ。
お前の体温を、感じていたい。
と、雨を理由に、俺に寄り添って――。

「寒い…」

なんて甘い理由ではなかった。
肩を小刻みに震わせる十代さんが、暖を取るように体をピタッと密着させてくる。
ただ単に、十代さんは寒かっただけらしい。
「大丈夫ですか?」

たった今想像していたことを悟られないように、精一杯取り繕う。
そんな必死な俺には気付かず、十代さんは穏やかに微笑んだ。

「うん…遊星暖かい…」
「………っ」

俺の肩も僅かに雨に濡れてしまい、体温は奪われていっているハズなのに、体が熱くなる。
頭の奥がジンとした。
俺はチラリと十代さんに視線をやって、左手をゆっくり上げていった。
後20センチ、後10センチ…。
徐々に縮まっていく距離に、心臓はドッドッと早鐘を打つ。
手が震える。
あと、数センチ。

「遊星!」

俺はビクッと固まった。
もちろん、表情には出さないよう努めたが。
十代さんの肩を掴もうとしていた手は、いつの間にか。

「遊星、走ろう!」
「えっ…」

呆然としていると、掴まれた手をグイッと引かれ、強制疾走。
俺より小さい手のひらにグイグイと先導され、降り注ぐ雨の中へ。

「ちょ…十代さん!?」
「ハハハ!楽しいな、遊星」

手をこまねいていた俺に、あっさりと手を繋いでしまったあなた。
冷たい飛沫に打たれる手から、確かに伝わってくる温かな熱。
前方を向けば、楽しそうなあなたの笑顔。
ああ…まったく、この人は。
繋いだ手に感じる体温に、走っているせいとは違う動悸の乱れが生じた。
打ち付ける雨音に、この激しく脈打つ鼓動がうやむやになってしまうのを願いながら、俺は掴まれているだけだった手に力を込めた。
ギュッと握り返すと、振り返ったあなたはやっぱり笑顔で。
ギュッと握り返すと、振り返ったあなたはやっぱり笑顔で。
もう思考も鼓動もメチャクチャで、けれど俺はそれがとても心地よくて笑った。

あなたは気付いていないだろう。
あなたを見る度上がる体温だとか、あなたに触れるだけで壊れそうな心臓だとか。
それが、どれだけ俺に温かな気持ちをもたらしてくれているかを。


(繋いだ手の体温に、また、恋をした)

END


メール整理をしていたらたまたま出てきた二年前の拍手文。
読み返して、そういえばこれがうちの遊星のヘタレの原点だったと思い出し大爆笑。
これがなかったらうちの遊星はもっと男前キャラでした←
ごめんよ遊星(笑)
こんな古いのですみません;

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