◎拍手ログ◎

□奇跡は起こる
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今回は遊星×十代で映画補完SS!
十代を元の時代に送り届けたシーンがなかったので妄想で補いました(笑)
捏造設定でもいいよと言う方はどうぞ↓









最初から分かっていた。
別れが来ることは。
あなたと俺は違う時間の流れの中で生きていて、その時間が交わることは決してない。
偶然にも時代を超えて出会えたのは、世界の危機により力を貸してくれた赤き竜のおかげだ。
俺の力じゃない。
それでも、シグナーであったことにこれほど感謝したことはない。
この力のおかげで赤き竜の力を使い、かけがえのないあなたと出会えたのだから。
ただ、やはり心の隅では思ってしまう。
こんなに苦しい思いをするなら、あなたに出会わなければ良かった。



『奇跡は起こる』



時空の狭間を切り裂き、赤い車体が空中に浮かぶ。
ダンっと音を立てて異国の屋根に降り立ったDホイール。
勢いを殺すように足でスライディングして、ピタリと止まった車体に、腰に回された腕が離れていく。

「ふー…サンキューな!遊星」
カチャリとヘルメットを取り、明るく声を掛けてくる十代さん。
遊戯さんの時代に飛ぶ時は一悶着あったヘルメット論争も、さすがに帰りは安全に送り届けさせて下さいとお願いして、何とか十代さんにヘルメットを被ってもらった。
過保護すぎじゃね?遊星と笑われたが、もしもということがある。
いや、だがそれは俺の自分に対する言い訳かもしれない。
もう、会えないかもしれないから。あなたには。
だから、あなたと過ごした証が欲しがった。
あなたが身に付けたヘルメットを見て、元の時代に戻ってもあなたを思い出したいと思った。
なんて浅ましく姑息な男だ。

「……遊星…?」

十代さんに呼ばれてハッとする。
どうやら返事のない俺が気になったようで、十代さんが後ろから覗き込んできた。

「どうした?大丈夫か…?」

ああ…あなたはどこまでも純粋で真っ直ぐで、愚かな謀りごとをしている俺に気付きもしないで心配までしてくれるのに。
自分の下心に嫌気が差す。

「すみません。大丈夫ですよ」
何でもないように装って微笑むと、十代さんはキョトンとしていた。
穢れのない瞳に、早鐘を打ち出す心臓。
これ以上見つめられたら変なことを口走ってしまいそうで、俺は慌てて目を逸らし、Dホイールから降りた。

「どうぞ…」

ヘルメットを受け取り、Dホイールに跨ったままの十代さんに手を差し出す。

「だから世話焼きすぎだって」

コロコロと笑いながら、それでも差し出した手を取ってくれるあなた。
トンッとDホイールから十代さんが降りたのを見届けて、手を離そうとした。
だが、離れなかった。
いや、違う。
正確には離せなかったんだ。
十代さんが、俺の手を強く掴んでいたから。

「じゅ…十代さん…っ」

動揺してしまったせいで、喉から上擦った声が出た。
十代さんは俯いてしまっていて、表情は見えない。
せめて表情さえ見えれば、十代さんが何故手を離してくれないのか、少しぐらい真意が読み取れたかもしれないのに。

「どうしたんですか…十代さん」

十代さんは答えてくれない。
もしかしてさっき俺が返事をしなかったから、怒ってしまったのだろうか。
最悪だ。俺が自分の浅ましい欲を考えていたせいで十代さんに不快な思いをさせてしまった。
もう別れなければいけないという時であるのに。
気まずいまま、離ればなれになってしまうなんて。
これは罰なのだろうか。
醜い欲を抱いてしまった、自分への。
止まらない己への自責に苛まれていると、不意に掴まれた手がグイッと引かれた。

「え…」

激しい叱責に悩まされていたせいか、反応が遅れた俺は僅かにつんのめった。
途端に、フワリと鼻腔を擽るシャンプーの香り。
顔を埋めた先が十代さんの肩だと分かるまで、数秒を要した。
なんだ、コレは。
これじゃあ…まるで。

―――十代さんに、抱きしめられているみたいじゃないか…。

「……っ!!」

自分の置かれた状況を飲み込んだ瞬間に、顔に沸騰しそうなほどの熱が集中した。

「じゅ…十代さん…」

上擦りすぎて掠れた声が喉から漏れる。
言葉も紡げているか怪しい声量だったが、十代さんにはしっかり聞こえていたようで、背中に回された腕がギュッと力を強めた。
よくよく見てみると、十代さんは僅かにつま先立ちをして俺を抱きしめていて、頭の冷静な部分が可愛いな、なんてのん気なことを思っていた。
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