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□これだけは譲らない!
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『これだけは譲らない!』



「行きましょう、十代さん」

パラドックスの攻撃を受けるかという絶対絶命のピンチに十代の前に現れた遊星。
彼は赤き龍の力を借り、未来のデュエルディスクに乗ってこの時代へやってきた。
パラドックスのしようとしている計画を聞き、互いに力を合わせて戦うことを決意した十代と遊星だが、思わぬ所で足が止まってしまった。
それと言うのも…。

「うっわぁ…すげぇ!本当に乗っていいのか!?」
「ええ。その方が時間移動するには安全ですから」

Dホイールに跨り、後ろに乗ってくださいと促すと、十代は目を輝かせた。
そういえばさっき、彼の隣にいた長身の男が、十代がDホイールに乗りたがっていると言っていたのを思い出し、遊星は僅かに苦笑する。
我ながら不謹慎だ。
世界の滅亡がかかっているというこんな時に、笑みを零してしまうなんて。
けれど、つい先刻出会ったばかりの十代という男の雰囲気、というか明るいオーラに毒気を抜かれてしまっているのも事実。
不思議な人だ。
初めて会うというのに、とても安心できる。
彼は目上の人だろうから、柄にもなく敬語なんて使っているが、それを除けば心の隔たりを作る必要もない程、気の置けない人だった。
ボックスからヘルメットを取り出し、キラキラと星が散りばめられたような輝く目でDホイールを眺める十代に差し出す。

「これは…?」
「あなたが被っていてください。Dホイールに乗るのは初めてでしょう?」
「あ―、まぁそうだけど」
「さ、後ろに乗ってください。スペースは大丈夫ですか?」
「あ…うん。っと…おう!ぴったり!」
「それは良かった。すぐに発進しますから、ちゃんとヘルメット付けてください」

遊星はエンジンを掛けた。
が、後ろに乗った十代は何かを考え込むように目を瞬かせるばかりで、一向に渡したヘルメットを被ろうとはしない。
ミラー越しに十代の様子に気付いた遊星が、後ろを振り返ろうとした、刹那。
ボフッ。
遊星の視界が狭くなった。
突然色の変わった世界に、遊星は数秒してからようやく、自分がヘルメットを被らされたことを理解する。
遊星にとって、Dホイールに乗る時はこれが標準装備なので、別段驚きはしなかったが、意外な展開に少々面食らった。

「十代さん…?」

自分にヘルメットを被せたであろう張本人を振り返ると、十代は相変わらず笑っていた。

「運転手のが危険があると大変だろ?それは君が被っててくれ」
「いえ、俺は平気ですからっ」

パラドックスの計画を阻止する、というだけでも十分協力してもらっているというのに、その上彼に気を遣わせるわけにはいかない。
遊星は慌ててヘルメットを脱ぐと、十代の頭にそっと被せた。
十代が小さくうわっと声を上げる。

「あ…すみません。ですが、やはりこれはあなたが被っていてください。後ろは支えがない分危険なんですから。ましてや初めて乗るとなればバランスも取るのが難しいでしょうし」

これ以上気を遣わせるわけにはいかないと、いくつか説得できるような最もらしいことを連ねてみるが、遊星の努力も虚しく再びヘルメットが頭に戻ってくる。

「いいって。ほら、オレは…えーっと…アレだ。あのモンスターの攻撃をかわしたんだし!」
「あなたの身体能力とバイクに乗る危険性とは話が別です」
「う…っ」

ピシャリと論破すれば、十代が怯む。
彼はどうにも感覚的にものごとを捉える節があるようだ。
十代の身体能力を信じていないというわけではないが、ここだけは譲って欲しい。
十代の身体能力を信じていないというわけではないが、ここだけは譲って欲しい。
遊星は二度目となるヘルメットを脱ぐと、上体を捻って真摯な顔つきで十代を見つめた。

「お願いですから、これを着けてください。…十代さん、俺はあなたが心配なんです」
「……うっ…」

卑怯だとは思ったが、情に訴えない限り、彼は言うことを聞いてくれないだろう。
遊星の読み通り、情けに訴えかける瞳で見つめれば、十代が弱々しそうに眉を下げた。
上目遣いにじっと見つめ返され、今度は自分の気持ちが揺らぎそうになってしまった遊星は焦りながら、十代の瞳を覆うようにヘルメットを被せる。

「俺はこいつに乗ってから日が長い。だから大丈夫です」

心配はいらないですよと言うように微笑むが、十代は納得いかないというように目を伏せていた。
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