◎拍手ログ◎
□大事なこと
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無事、世界を破滅させようとしていたパラドックスを倒した遊戯、十代、遊星。
だが、平和に戻った世界とは裏腹に、男二人による新たな戦いが幕を開けていた。
『大事なこと』
穏やかな夕焼けに包まれる中、生死を賭けた激闘を共にした三人は手を重ね合わせた。
友を讃えるように、また会えるように。
重ね合わせた手を握って、三人微笑み合う。
だがそれも最初の数秒間だけで、十代に笑顔を向けていた遊戯は、遊星に向き直った。
「所で遊星、そろそろ手をどけないか?」
遊戯はあくまで笑顔だ。
笑顔だが、こめかみがひくついていた。
遊星はいかにも何も知らないような顔で、冷静に問い返す。
「何故ですか」
あくまで遊星は無表情である。
無表情だが、目は据わっていた。
動じない遊星に、遊戯の口元がヒクリッと歪む。
「何故って…そんなにギュッと握ったら十代の手が痛いだろう?」
「……!」
ギュウッと遊戯が遊星の手を握る。
いや、握るなんて生易しいものじゃない。
リンゴでも握り潰すかの勢いで力を込めてくる。
力の入れすぎでググッと震える遊戯の手。
カチンと来たが、遊星は十代に悟られるわけにはいかないと、遊戯に握り込まれそうになる手に力を入れて耐えた。
遊星の中には、十代から手を放すという選択肢はないらしい。
「…っ往生際が悪いぜ、遊星っ」
「あなたこそ、大人気ないですよ」
薄ら笑いを浮かべながら、応酬される会話。
十代に気付かれないようにと、二人はヒクつく口元で笑みを作っているが、睨み合う目は既に戦闘モードだ。
「君はもっと先輩を敬うことを覚えた方がいいな…」
ギリギリと握り、握られる手。
「あなたはもっと大人になった方がいいんじゃないですか…?」
ジリジリと近付くアメジストと碧の瞳。
そのうち額を突き合わせて睨み合いを始めそうな二人に、間に挟まれながら取り残された十代は、コテンと首を傾げた。
「………なんかオレ、仲間外れ?」
十代の声を聞き咎めた二人がバッと振り返る。
凄まじい反応の速さだ。
「そんなことはないんだぜ十代!」
「そうです!むしろ…」
あなたを巡って争ってるんですから、とは遊星は言えなかった。
「……?」
どう言おうか考えあぐねて押し黙ってしまった遊星に、十代はキョトンとする。
遊戯の目がキラリと光る。
隙あり、とばかりに遊戯が遊星の手をパシッと払いのけ、十代の手を取った。
しまった!と遊星が思っている間に、遊戯は手に取った十代の手の甲に、そっと口付ける。
「ゆ、遊戯さん!?」
まさか憧れの人にキスされると思っていなかった十代は、サッと頬を染めた。
十代の反応に、遊戯は満足そうな笑みを浮かべる。
「十代、君の戦いぶりは本当に見事だったぜ。美しいデュエルだった…」
「遊戯…さん…」
目を細めて真っ直ぐに見つめてくる遊戯の瞳を、十代は恍惚とした目で見つめた。
憧れの人に賛美の言葉をもらえて、嬉しくないわけがない。
「君のデュエルの流れを読み取る力、的確な状況対応、何よりそのデュエルを楽しむ無邪気な心があったからこそ、俺たちはあんなにも強大な敵に勝つことができた」
良い雰囲気を醸し出している遊戯と十代に、快く思わず二人を眺めていた遊星も、その言葉には共感できた。
事実、あのパラドックス相手に互角に渡り合い、最後まで諦めず戦えたのは十代の戦略的なサポート、そして心を支えてくれた明るい笑顔があったからだ。
遊星は遊戯に握られている手とは反対の、十代の手を取った。
「遊星…」
「遊戯さんの言うとおりです。十代さんがいてくれたから、支えてくれたから、俺も諦めず戦うことができた」
遊星は遊戯のように口付けることは出来なかったが、感謝の気持ちを伝えるように、強く十代の手を握った。
「遊星…遊戯さん…」
二人から伝わってくる暖かな気持ちに、十代は胸を詰まらせた。