◎拍手ログ◎

□希望を見つけた絶望は
1ページ/1ページ

最初に惹かれたのはその強い意思を宿した美しい瞳だった。
もし、同じ時代にいたのなら、私は君と共に在れたのだろうか。


『希望を見つけた絶望は』


愚かな人間。醜い争い。絶えない絶望。
そして世界は破滅した。
歴史を作るのは人であり、未来を造るのも人である。
だがどうだ。自分たちの愚かな行いに気付かない人間が、歴史を滅ぼし、己等さえも滅ぼした。
未来のない世界が、どれほど途方もなく、絶望的なものなのかに気付きもしないで。
生き絶えていく命、失われていく時間。
ああ、まったく無様だ!
愚かで、醜く、罪深い。
世界が上げる悲鳴を聞いた。
世界が滅びる音を聞いた。
自分が堕ちる、声がした。

―――どうせ滅びる運命ならば、未来を滅ぼした過去を消してしまえ。

警笛が鳴る。
だが、止まらなかった。
止められなかった。

私はこの、醜く愚かしい世界を、愛していたから。



「精霊の力を操ることの出来る類稀なるデュエリスト…」

あらゆる過去の統計を集め、導き出した希望。

「遊城、十代…」

彼が、私の大いなる計画の引き金となる。
もしかしたら、彼なら出来るかもしれない。
この虚しさで埋め尽くされた世界を、未来を変えることが。
そして、私は過去に飛んだ。
絶望的な未来を変えるために。
その成功を握る彼に会うために。

「遊城十代…君にはここで消えてもらおう」

さぁ、見せてみろ。
私の用意した死という未来を変える力を。
腕を振りかざす。
スターダストドラゴンに攻撃を命じる。
光の業火に包まれながら彼が見せたのは、絶望でも苦痛でもなく、強い輝きを放つ瞳。
光の業火に包まれながら彼が見せたのは、絶望でも苦痛でもなく、強い輝きを放つ瞳。
諦めるわけでもなく、立ち向かってくる意思を宿した目に、湧き上がる高揚感。
途中、スターダストドラゴンを奪い返しに追ってきた不動遊星に邪魔をされたが、もうこの時代に用はない。
彼なら未来を変えられる。
そう確信したからだ。
この時代に来た目的は果たした。
十代、その男と共に私を追ってこい。
次会うときは、世界の未来と、そして己の命を賭けたデュエルを用意して置いてやる。

「未来を、私が望む世界に変えてみせろ」

破滅ではなく、再生を。
絶望を希望に。
私は世界を愛していた。
だから、これこそが正しい道だと思っていた。
そう、彼らの未来に向かう力を、見せられるまでは――。


「私の実験は間違っていたというのかぁぁああああっ!!」

光に包まれる。
体が灼けるように熱い。
あの時、静かに、だが激しくその身を焼かれたこの星も、こんな痛みに支配され生き絶えたのだろうか。
消滅していく自分の命の灯火を感じながら、ふと眼下を見下ろせば、あの美しい瞳が悲しそうな色を浮かべ揺れていた。
遊城十代。
君の瞳に、全てを変えられる希望を見出した。
そして、君と君の仲間は見事に未来を勝ち取った。
それが滅びを選ぶ道だとしても、私には手に入れられなかった未来へ向かう力で、君たちはこれからを生きるのだろう。
パンドラの箱に入っている物は絶望。
その蓋を開けたが最後、未来は滅びる。
だが、箱の奥には希望がたった一つ、置かれている。
絶望をもたらす私がパンドラの箱なら、たった一つの最後の希望が君たちなのだろう。
私が欲しかった未来は、君たちが既に持っていた。
十代、もし君と私が同じ時間の中を生きれたとしたら、同じ希望を手に出来たのだろうか。
強い輝きを宿す瞳に、惹かれたのは心ではなく運命。
あんなにも欲しかった希望が目の前に広がっているのに、もう私には手を伸ばすことさえ出来ない。消えゆく意識の中で、愚かな歴史の一部となった自分に笑みを零した。


願わくば、今度は君の隣で希望を掴みたい。
身勝手な私のために、その美しい瞳を揺らしてくれた、君の側で。



END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ