裏★小説

□凄艶の宴
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遊星には『絶対に夜一人で不用意に出掛けないでください』と、耳にタコが出来るくらい言われ続けた。
クロウには『出掛ける時は絶対俺に言うんだぞ?一緒に付いてってやるから』と常に注意された。
ジャックには『お前は危なっかしい奴だからな。こっちが気が気ではない』と、もしもの時のためにと防犯グッズを大量に持たされた。
これまで一人で世界中を旅してきたのだからそんなに心配しなくても大丈夫だと笑った十代に、アキや龍亞、龍可たちまでもが『一人で出歩いちゃダメ!』と釘を刺してきたのはまだ記憶に新しい。
十代が遊星たちの元へやってきてまだ間もないが、皆とすぐに打ち解け、すでに仲間と呼べる存在になっていた。
それにしても、と十代は思う。
皆、心配しすぎ…いや、過保護すぎるのだ。
十代が出掛けようとすれば、朝だろうが昼だろうが誰か手の空いている者が保護者さながら付いてくるし、夜に外へ出ようものなら例えちょっとそこまで行くだけの散歩ですら全力で止められる。
口八丁手八丁、ありとあらゆる手段で十代を引き止め、酷い時にはお菓子で釣ってこようとしたこともあるのだ。
あまりの仲間達の必死さに、十代は思わず懐かしのアカデミア時代を思い出していた。
つまり、デジャヴだ。
あの頃もどこかへ行こうとすれば必ず誰かがくっついて来ていたし、夜一人で出歩けば、仲間にこっぴどく怒られた。
最初は気にしていなかった十代だが、段々と悪化していく周りの過保護ぶりに、オレってそんなにひ弱そうに見えるだろうかと悩んだ時期もあったりした。
だから遊星たちの所へ来て、学生時代となんら変わらない仲間達の自分に対する世話の焼き方に、十代は思い切って『オレってそんなに頼りなさそうに見えるか?』とちょっと拗ねながら聞いたことがある。
返ってきた答えは全否定。
特に共に闘ったことのある遊星は恐いくらい真剣にそんなことはないと熱弁してきたくらいだ。
仮にも一人旅をしている身なのだから、仲間達も十代が弱いなどとは一切思っていないらしいが、心配か心配じゃないかと聞かれれば全員が心配だと断言した。
だったら何で、とますます首を傾げた十代が、悩んだ末に出した結論がこうだ。
ネオ童実野シティが危ない所だから、皆過剰に心配してるんだ。
当たらずも遠からずな感じだが、遊星たちに言えば首を横に振られるだろう。
生憎十代は勝手に導き出したこの結論を口にはしていないので、仲間達は間違った認識をされていることに気付いていない。
お互いすれ違った考えのまま、今日という日を迎えなければ、十代はまだ無事だったのかもしれない。
仲間達が心配する理由を、十代が真に理解していれば、彼はこんなコトに巻き込まれず済んだのかもしれない。
あるいは、十代自身が何もかもを惹きつけてしまう自分の性質に気付いていれば……。





******************

満月の夜だった。
下界の闇をうっすらと青白く照らす月の光は優しく、けれどどこか不気味な雰囲気を漂わせている。
様々な文明が発展したシティには人間が作り出した光が溢れていたが、少年が一人歩く人気のないその道は、数十メートル間隔に設置された街灯が続く道路の道筋を必要最低限照らしているだけの暗い場所だった。
辺りに民家は少なく、仕事を終え明かりの消えた無人のビルが建ち並ぶだけの通りである。
人っ子一人いない閑散とした夜の道を歩くその少年は、手にぶら下げた紙袋を見て密かに微笑んだ。

「皆…喜ぶといいな」

楽しそうに呟いた栗髪の少年、十代は空を仰いだ。
真っ黒に塗りつぶされた空のキャンパスに、ぽっかりと浮かぶ月はどこにいても一定の距離感でそこに在る。
遠い宇宙から降り注がれる青白い光の粒子は、その色とは対照的に温かく感じた。
人工の明かりが溢れる街の中では存在が希薄な満月も、暗く保たれるこの道では圧倒的な存在感を宿していた。

「綺麗だよなぁ…」

喉を反らしているせいで、少し自分の声が変に聞こえて、十代は可笑しくなる。
歩きながら上を見上げた体勢のまま月を眺める十代は、やっぱり誰かと一緒に来れば良かったかな、と後悔した。
散歩でも行こうかと思い立ったのはいつものように唐突な気まぐれで、計画性など皆無だった。
夜もいい加減更けていて、お世話になっているガレージの窓から見た外の景色は昼間とは別世界で、だから尚更、十代の好奇心を駆り立てたのかもしれない。
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