□■ 捧げモノ ■□

□8400番キリリク【螺子様】
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パチ


パチ



白い指先に鋏を添えて、
慎重に
慎重に
爪を切る。


いつからか、これが俺の仕事になった。





手、綺麗ですよね……

なんて、戯れに触れたのはいつだったか。
それは触れたかったから、その口実に他ならなかったのだけれど……。


「あれ」


その時、
隊長の爪が少し割れていて。
どこかにぶつけたのか、ひっかけたのか……


「ちょっと待ってて下さい」


俺は席を立った。

小振りの鋏を手に戻って、

ひょい

その手を掬い取る。
綺麗な爪を指先で撫でて、
割れた爪を整えるように鋏を操った。


「意外に器用なんすよ、俺」


なんて、笑いながら。


女みたいなするりと滑らかな肌。
ささくれなんかひとつもなくて、
いつまでも触れていたいと思うような、そんな手。

俺の手とは大違いの、
隊長の綺麗な綺麗な白い手。


「よし、できた」


ヤスリをかけて丸みをもたせたその爪は、もういつも通りの綺麗な爪先。
なかなかいい仕事したぜ……なんて、ちょっとばかし自己満足に浸ってみたりもした。

じぃ、と己の指先を見つめる隊長は、ふっと小さく吐息を漏らして俺を見つめる。


「驚いたな、お前はこんなこともできるのか」

「いや、誰でもできますって、この位」

「そうか?私にはできぬが……」


隊長の言葉に俺は笑った。


「隊長はできなくても、やってくれる人がいるならいいんじゃないんすか?」


今までだって、きっと家の人がやっていたんだろうことだ。

それが少し、面白くないような気もするが……
こればっかりは仕方ねーし、
下らない嫉妬は餓鬼くさいから

笑って誤魔化した。


「恋次」


鋏を戻そうと席を立てば、不意に俺を呼ぶ声。


「はい?」


立ったままにその人を見つめる、
未だ満足気に指先を見つめるその姿に口元を緩ませながら。


「次からはお前に頼むとしよう。この手にお前が触れるのが、心地よかった」


紡がれる言葉は柔らかく、
俺に向けられた瞳は甘い笑みの色を含んでいた。


「……っ」


なんだ


なんだよ


不意打ちじゃねぇか……



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