□■ 捧げモノ ■□

□1000番キリリク【いもも様】
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ガタタッ


ガタンッ



「……ッ、何だ…?」


椅子が倒れて派手な音をたてた。

静寂を破る音。

いきなり捕られた腕に驚き、その人は目を見開く。

事の起こりを理解していないんだろうその瞳。
いつもは鋭く射るような視線を向けるそれも、ただ呆気にとられたように呆然と見つめるだけだ。



その腕を掴んだのは……



何を隠そう俺なんだが。










【媚薬】













ある日の夜。
そう、あれはもう闇が全てを覆い隠した時刻のことだったと思う。
ほろ酔い気分でブラブラと家路を辿ってた俺の向かいから、いかにもというような女が駈けてくるのが見えた。


面倒事には関わりたくねぇ


ひょいと脇に体をずらして素知らぬ振りですれ違うつもりだった。
だが、生憎とこんな時間にウロついてるヤツなんて他にいなかったんだろう、
何かに追われていた女は、俺に縋るように視線を向けて腕を絡めてきた。


「ちょいとアンタ、助けておくれよ」


息を切らした女はそう言うや否や、俺を路地に連れ込んでその白い腕を絡めてきた。
女が走ってきた方からは数人の足音がする。


「おいっ、ここに女が来なかったかっ?!」


女の細腰を抱いた俺の背にかけられる声。
ジロリと背後に一瞥してぐっと抱く腕に力を籠める。


「野暮なこと聞いてんじゃねぇよ、さっき買った女が早く早くってうるさくてこっちは今それどこじゃねぇんだ」

「…あぁ、そーいやぁ…さっきあっちに走ってく足音聞いたぜ?」


チラと視線を向こうに遣って一言。
舌打ちの音とバタバタと遠ざかる足音に眉間に皺を刻む。
するりと首に回された腕は追っ手が離れたというのに絡みついたままで……向けられる艶を帯びた視線にグイと肩を押して体を離した。


「人を巻き込むんじゃねぇ…どっから逃げ出したんだか知らねぇけどよ」


すらりと白く伸びた足は裸足のまま、土に汚れた足先が目に留まる。


「つれないことを言わないでおくれよ……ふふ、アンタのおかげで助かったよ旦那」

「ねぇ、どうだい?助けてくれた礼に、抱かれてやるよ……」


しなだれかかる体に寄せられる真紅の唇。

白粉と紅、甘く艶やかな香の香りは上等なものだろう。

しかし、誘われてやる気など更々ない。

「早く逃げたほうがいいんじゃねぇか?またくるかもしれないぜ」




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