TEXT

□medley Y
2ページ/10ページ


今日、旅立つのです。

今俯いて、夏の大地を流れたホースに依る打ち水が蒸発していくのを見ている君は気付かないだろう。

今日だからこそ、旅立つのです。

集中力の欠如が作った甘い油断に、熱湯を注ぎ込む勢いで自分に鞭を打つ君は、さよならなんて言ってくれないでしょう。

今日、旅立ったのです。

別れ間際に私の帽子をふんだくった君は、髪の毛で顔を隠して赤く泣いていました。

昨日、旅立ったのです。

受話器のずっと向こう側で君は、あなたがいないと蝉の音が耳障りだわと嘆きました。

明後日、旅立つのです。

客足の少ない故郷の駅に。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ