天の間
□be obediently
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―――そしてそれから数日後。
あの後シヴァはパンドラと一度も会っていない。
姿を見かける度に過剰なくらい避けてしまっていたし、パンドラの方もまたシヴァと顔を合わせないようにしているようだった。
そしてなんとなくユダのところにも行けず、シヴァはずっと一人で過ごしていた。
今日もシヴァは、一人で少し家から離れた所にある森へと来ていた。
一人でいても、あれから毎日のように心に過ぎるのはパンドラのことで、ふと気付くと数日前の喧嘩を思い出してしまう。
この森に来てしまうのも、おそらくはパンドラの家がここから近いからだ。
会いたいわけじゃない。むしろ会いたくない。
でも…。
「…パンドラ、まだ怒ってるのかな…」
木漏れ日の溢れる森を歩きながら、シヴァは呟く。
――あの時パンドラは僕を普通に心配してくれただけだった…。
悪いのは自分だと分かってはいた。
だけど、何故か思ってもないことばかりが口をついて出てしまったのだ。
時間が立てば立つほど後悔の念は膨らみ、シヴァはそれに苛まれていた。
そして、傍にいて欲しいときにはいつもいてくれたぬくもりが感じられないことが、思いのほかさびしい。
「なんだよ…側になんていないじゃないか…」
小さく呟くと、シヴァは森の中を行く宛もなく歩き出した。
とぼとぼと歩いて数分がたった、その時。
―――――ポツリ。
「雨…」
シヴァの頬に雨粒が落ちた。
降り出したのは、沈んだ気分に拍車をかけるようなしっとりとした雨。
シヴァは周りを見回し、雨を避けられるような場所を探したが、森にあるのは高く伸びた木のみだ。
帰ろうにも自宅はここから遠く、あてにする友達もいない。
残る選択肢は一つ。
「…パンドラの家…」
―――嫌だ。
顔見てなんて言えばいいのか分からない。
第一、またパンドラに頼るなんて!
だが、決めかねている内に雨足はどんどんと強まり、シヴァもみるみるうちに濡れていく。
シヴァにはパンドラの家に行くほかに、雨を防ぐ選択肢はなかった。
パンドラは、自分を家に入れてくれるだろうか。
そんな不安もあったが、冷たい雨は容赦なくシヴァの体温を奪って行く。
パンドラの家へと歩き出したシヴァの足は、だんだんと早くなっていった。