天の間

□君ノ馨
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それは昼休みのこと。

セイント学園の図書室は、私立だけあって並々ならぬ蔵書を誇る。

授業中は司書教諭が、放課後などは図書委員の生徒数名が交代で蔵書の管理を行うのだが、あまり人の来ない昼休みだけは、図書委員の生徒が一人で管理していた。

今日の担当であるシンは昼食を済ませたあと図書室に向かい、返却されて来た蔵書の整頓を始める。

図書室には今、シン以外の生徒も教師もおらず、階下の喧騒が遠くに聞こえるだけの静寂の中、シンが作業をする音だけが響いていた。

図書室の空気を心地良く感じながらシンが黙々と片付けていると、不意にその静寂を破るようにドアが開き、聞き覚えのある声で名を呼ばれた。


「シン」

「…!ユダ!!」


シンが振り返ると、そこにいたのは生徒会長のユダであった。

ユダは右手に本を持ち、微笑みながらシンに歩み寄る。


「本を返しに来たんだが…頼めるか?」

「もちろん。お預かりします」


シンはユダから本を受け取るとカウンターへ向かった。

セイント学園の図書室では、蔵書の一冊一冊に貼付けられたバーコードで、貸出と返却をはじめ、所蔵資料の把握などを行っている。

シンが本を機材に通すと、バーコードを読み取った機材が電子音をひとつ鳴らした。


「…はい。返却承りました」

「ああ。ありがとう」


再び微笑むユダ。

シンはその優しい微笑みに頬を赤らめ、俯く。

そして今更ながらに、今この図書室にはユダと自分の2人だけしかいない、という事実を認識する。

そして、本を返却しても立ち去らないユダに困惑した。

ユダは何事か考えている様子だった。
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