天の間

□be obediently
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それは今日の丁度正午過ぎのことであった。

シヴァは神殿の中をぽてぽて歩いていた。

いつものことながらやる気はなく、ユダの為に情報を得るとは言ってはみたものの、ここに来るだけでも面倒だった。

―――いくら全てはユダへの愛の為とはいえ、情報収集なんてガラじゃない。
でも、ユダは優しいから。
だからこそ僕がやらなきゃいけないんだ!


無いやる気を無理矢理に出し、シヴァは足音を立てて歩き出す。


「うるさいですね」

少し遠くから聴こえて来た声。
その一言で誰だか分かった。
なぜか胸が高鳴る。


声を発するよりも先に口だけが開いて、少し間を置いて漸く声が出た。


「…パンドラ…」


声のした方向を見れば、パンドラが近寄って来るのが見えた。
大理石製の床にかつかつとパンドラの足音が響く。


「誰かと思えば…シヴァ、あなたですか」

「何だよ」

「いえ、あなたがこんなところにいるなんて珍しいな、と。」

「…悪いかよ」


パンドラは鼻で笑うように言葉を紡ぐ。

いつも小馬鹿にされているようで、別にパンドラが嫌いなわけではないのに応答がわずかに喧嘩腰になる。


「そんなことは言っていないでしょう?ああ、それとも何か後ろ暗いことでもあるのですか?…まだあの者に懐いてるようですし…」

「…それってユダのこと?」

敬愛するユダを悪し様に言われ、シヴァは眉をしかめる。


「さぁ。−−−?シヴァ、あなたちょっと顔色がよくありませんね」


パンドラがぐっと近寄る。


「やはり。少し顔が蒼いですね」

「…っ僕に構うな!」


パンドラの肩を押し退けて発せられたシヴァの拒絶の言葉に、パンドラの表情が少し強張る。

それはかすかな変化で、シヴァは気付くことが出来なかった。


「構うな、ですか。人がせっかく心配しているというのに…よくそんなことが言えたものですね!」


笑顔の圧力。
心の隅では、ちょっと言い過ぎたかとも思ったけれど、言葉はもう止まらない。


「うるさいな…ほっとけよ!」

「ええ、そうします。私だっていつまでもあなたに付き合っていられるほど暇じゃありませんから」

パンドラの言葉に更に煽られたシヴァは、ほとんど叫ぶように言った。


「…っじゃあなんで僕に声かけたりするんだよ!!始めから構わなきゃ良かっただろ!?」

「ええ。私としたことが失敗でした。では、さようなら。シヴァ」


微笑を湛えたままくるりと踵を返してパンドラは去っていったが、ぎらぎらした光を宿らせた瞳は明らかに怒っていた。




「…ハァ…」


吐いて出た溜め息に気分は一層重くなる。

軽く頭痛もしてきた。

パンドラに指摘された通り、知らずに体調を崩していたのかもしれない。
どうしてパンドラとはいつもこうなるんだろう…。


パンドラに酷いことを言ってしまったという気持ちがないわけではなかったが、しかし今から追いかけて謝るなんて絶対出来ない。


結局当初の目的も果たさぬまま、シヴァは神殿を後にした。




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