短編

□癒しの人
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リング戦も終わり、平和な日常が戻ってきて今日も一日が始まろうとしていた。
が、ここに一人、リング戦時よりもきつそうな顔をした少女が一人居た…。





「十代目!おはようございます!!」
「ツナ、おはよう!」
「………おはよう…」


朝、珍しく余裕を持って学校に着いていたツナに、獄寺と山本があいさつをする。
だがいつもなら元気よくあいさつを返してくれるツナが、今日はなんだか元気が無い。
というか、生気が無い。

「じゅ、十代目、どうなされたんですか!?ご気分でも悪いのですか!!?」

自称右腕の獄寺は、いつものごとく大げさに慌てふためく。
山本も心配そうにツナを見ている。

「実は…………………………やっぱなんでもない」

ツナは、明らかに何かを言いかけたが、途中でそれを押しとどめる。
そっぽを向いてしまったツナに、自分に落ち度があったのかと嘆く獄寺。
それを爽やかに無視し、ツナの肩に腕を回す山本。

「なんでもないって雰囲気じゃないぜ?俺ら友達だろ?話してみろよ」
「山本…!……………友達はこんなセクハラまがいのことはしません」

ツナは一瞬感動したかのように見えたが、肩に回された手がだんだん胸元へ下がっていくのを感じ、即座に突っぱねた。
今まで物凄く鈍かったツナだが、リボーンの教育(?)によって、スキンシップとセクハラの違いはなんとか分かるようになったらしい。
ただし自分へ対する好意には相変わらずの驚異的鈍さを発揮しているようだ。

「とにかく、何でもないから気にしないで!」

大きなため息を吐きながら疲れたように言うツナに、獄寺も山本も顔を見合わせることしかできなかった。


その後すぐに担任が来てHRが始まり、その後もすぐ一時間目の授業が始まったため、二人はツナが疲れている理由を聞き出そうにも聞き出せなかった。
だが授業中も上の空で、眠そうに欠伸とため息を繰り返しているツナを見て、そわそわと落ち着かない二人。
そして鐘が鳴り、休み時間になった瞬間二人はツナに詰め寄った。


「十代目!やっぱり元気が無さ過ぎます!!」
「話してくれないのか、ツナ?俺たち、そんなに信用無いか…?」

ボーっとしていたところにいきなり現れた二人に驚くも、困ったような顔で笑うツナ。
その顔はどことなく引きつっている。
と、その時。

 ガラッ

「ちょっと、ツナ居る?」

教室内の騒がしかった空気が、ドアの開く音と共にシーンと静まり返った。

この声は……

「…雲雀さん?」

並盛最強の風紀委員長、雲雀恭弥であった。
雲雀はツナを見つけると、他には目もくれずに一直線に向かって行く。
クラスの連中は、群れないように必死になりながら、

(沢田!お前何したんだ!!?)
(あぁ!沢田が噛み殺される!!)
(逃げるんだ!今ならまだ間に合う!!)

など声無き叫びを上げていた。
だが、実際雲雀はツナのことをまるで妹のように可愛がっているため、噛み殺すということはまず無い。
そのことを知らないクラスメイトは、クラスのアイドルツナが噛み殺されるのを想像し青ざめていた。

「おい、雲雀!てめぇ十代目になんの用だ!?」

さっそくガンつける獄寺。

「今ツナ、すっげぇ疲れているみてぇなんだ。用事なら後にしてくんねぇかな?」

穏やかに言うようで、黒い空気が周りを覆っている山本。

「なに、疲れてるの?」

山本の言葉を聞いた雲雀がツナの前髪を除け、おでこに手を当てながら言う。

「え、あ…まぁ、ちょっとだけ……。」
「少しクマができてる。…応接室で休んでもいいけど?」
「雲雀さん…………!!!」

あくまで自分を心配して言ってくれる優しい雲雀に、ツナは目をキラキラさせて感動する。

「雲雀、てめっ!?十代目!行ったら絶対に駄目っすよ!男はみんな狼なんスから!!」
「そうだぜツナ。油断してたらすぐ喰われるぜ」
「君たちみたいな変態と一緒にしないでよね。噛み殺すよ」

で、ツナ。どうするの、行く?

ツナの目に涙が溜まる。

「………雲雀さ〜〜〜〜〜ん!!!!!」

 ガバッ

教室中が声にならない叫びを上げる。

「じゅ、十代目〜〜!?そんなやつに抱きついては駄目です!」

どうせなら俺に…!!

「ツナッ!俺には絶対に抱きついてなんかくれないのに…!!」

ショックを受ける山本。

そりゃそうだ。
この二人に抱きつけば、その後どうなるか分かったものではない。
ツナのことをまるで妹のように可愛がっている雲雀は、ツナの嫌がることはしないし、セクハラなんてもってのほか。
今だって純粋にツナの身体を心配をしてくれて、ツナが感動のあまり抱きついてしまうほどだ。
そしてツナは周りを気にせずに、ギュッと雲雀の腰に回した腕に力を込める。

「どうしたの、ツナ?」

腰の辺りに抱きつくツナの頭を撫でる雲雀。
いつもなら絶対にないツナの行動に不思議に思う。
すると雲雀の腹に顔を埋めていたツナが、バッと顔を上げ、

「雲雀さん!!今日、家に泊めてくれませんか!?」

切羽詰った表情で叫ぶように言うツナ。
その言葉にショックで声にも出せない二人。
顔面蒼白なクラスメイト。
少し驚いたような顔をする雲雀。

クラスメイトが最悪のパターンを思い浮かべていたとき…

「別にいいよ」

(((((え〜〜〜〜!!!!?)))))(クラス一同)

無理もない。
群れが嫌いなあの並盛最強雲雀恭弥が、自分の領域に入ることをすんなり許したのだから。
しかも顔には穏やかな笑みを浮かべて。

「あ、ありがとうございます!!」
「でもどうしたの?ツナから来るなんて珍しいね。」

頭を撫でながら問う。

("ツナから来るなんて"って、今までも何度か御訪問済み!?)
(ていうか雲雀さんの笑顔なんて初めて見たぞ!?)

物音は一切立てずに、それでもかつて無いほどのパニックに陥るクラスメイトたち。
だがツナたちはそんな周りの様子に気づくことも無く。

「聞いてください!!実は今、ザンザスが家に泊まっていて、リボーンが俺にセクハラまがいのことをする度に二人の戦闘が始まって…。家はボロボロだし、二人ともお互いの挑発に乗っちゃってリボーンのセクハラは酷くなるし、ザンザスの攻撃も激しくなるし、夜はぐっすり眠れないし、近所からは変な目で見られるし………!!!」

涙ながらに話すツナ。

「それなら十代目!俺の家に来ればいいじゃないですか!!」
「そうだぜツナ!俺ん家くれば寿司も食わせてやれるし!」
「絶対に嫌!!」
「「何で!!?」」

「最初は二人に頼もうかとも思ったよ?でも!!山本は二人になったら絶対に変なところ触ってくるし、獄寺君もハァハァ言って気持ち悪いんだもん!!」

(((え〜…山本親父…、てか獄寺君キモ…いやいやいや)))

落ち込む山本と、ショックで倒れる獄寺。
そして二人の認識を少し改め、自分の中での二人の好感度を少し落とすクラスの女子達。


「じゃ、ひとまず応接室で休もうか」
「はいっ!」

満面の笑みで頷き、教室を後にする。

後に残されたクラスメイトたちは、ツナと雲雀の関係性に疑問を残し、よく分からないままだが、元通り平和が戻ったことに歓喜の涙を流すのであった。

二人分の屍を残して……。









おまけ

「おいコラツナ。何勝手に外泊してんだ……?」
「ひぃっ!!?り、リボーン…ザンザスは……?」
「昨日の夜に帰国させた。さてとツナ……そんなにお仕置きされてぇみたいだな…。」
「や、や、やだ〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「今日はもう寝れないと思え」
「た、助けて雲雀さ〜ん!!!」


そしてまた翌日寝不足で登校する羽目になったのであった。




H21.10,16加筆修正
 

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