小説1

□繋がる、続く、
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ぱらり ぱらり と
静かに本の頁を繰る音が、夢の中に迄届いていた。

夢の中のわたしたちはまだまだ幼く、穏やかにゆっくりと流れていく時間を意識する事も無く、風も光も暖かい時間も、全てが永遠に続く事の様に思えていた。

エドが私の大事な人形をふざけて壊した時、泣きながらそれを錬金術で直してくれたのは弟のアルだった。
エドは引っ込みがつかなくなって、少し離れたところできまり悪そうにそれを背中で見ていた。
本当は謝ろうと思っている、でもうまくそれが出来ない。
いい加減時間が経って、私の涙もすっかり渇いて違う事に夢中になり始めた頃、ようやくエドは小声で「ごめんな」と呟いた。
下を向いたままで、目も合わせてくれなくて、それでも、気持ちだけはちゃんと伝わった。

その不器用さは今も変わらない。
それでもまっすぐに在ろうとする気持ちも、きっと変わっていない。



頁を繰る音は続いていた、その音は優しくて、静かに、静かに、心の中に入り込んで刻まれて行く。
あの幼かった日の事の様に、この音もきっとまた思い出すんだろうと、私は夢うつつの中で考えていた。



うっすらと目を開けると、テーブルに向かい合ったソファーで積み上げた本を繰っているエドがいた。
真剣な眼差しが文字を追っている。
片手を顎に添えたまま微動だにしなかったエドが次の頁を繰ろうとした時、目を覚ました私にようやく気が付いた。



「お前、いつ来たんだよ。勝手に人のベッドで寝るなって何回云えば…」


「昔の夢、見てた。」


「?」


「昔、エドが私の人形壊しちゃった時の夢」


「……そんなこと、あったか?」



憶えているくせにとぼけたエドに私は笑った。
本当にそういうところ、変わらないんだから。



「夢ん中の俺はまだガキでも、いつまでも昔みたいなガキじゃないんだからな。……ち、ちょっとはお前…かかか考えろ!」


「なにを?」


「知るか!!」



エドは真っ赤になってバン、と勢い良く本を閉じた。



「だいたいお前なぁ…!!」


「…ねぇ」


「………なんだよ」


「おっきくなっても、大人になっても、私にとってエドは、エドだよ。」



エドの顔はまだ赤い。





「ずっと一緒に、いれたらいいね」


「………………おう」





幼い日の思い出を思い出す様に、今この瞬間も思い出になって、いつかまた思い出すのなら。
その時もまた、次の思い出のための時間を共有出来るといい。

それはきっと…なによりも、幸せな事だから。



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