小説1

□secret prisoner
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「なんで黙ってたんだよ!」


電話に出ると、向こうで立夏が怒っていた。







「……何の事?」

思い当たる節が在り過ぎる。
だから俺はそう問い返す。
電話なんて只の電子分解されて再構成されたニセモノの音。
けれど電話越しに感じるぴりぴりとした立夏の苛立ちは笑える程生々しくて、口許に笑みが浮かんだ。

「うわ…。
草ちゃんマジでそれキモい。
電話口でニヤニヤすんの止しなよ。変態!」

隣りに居たキオがそれを見てまた騒ぐ。

「いいからキオは黙って」

「何の事?」なんて、そんな言い方をしたら立夏はまた酷く怒るのだろうと、電話の向こうに耳を傾ける。

「なんで今日が誕生日だって教えてくれないんだよ!!」

ああ、その事か。

「……なんで?俺の誕生日なんて関係無いでしょ?」

優しく、響きだけは優しく告げる。
引き離そうと為れば為るだけ立夏は追って来る、それを知って居るから。


「関係ないなんて言うな!」


言葉に痛みが生まれる、痛みは記憶に刻まれる。
「関係無い」それだけの言葉で立夏は酷く傷付いて、きっと顔を真っ赤に為て怒って居る。
泣きそうに、為りながら。

「俺の誕生日なんて誰に聞いたの?」

ちらりと隣りに居るキオに目をやる。

「ユイコが草灯の友達に聞いたって言ってた!特別なプレゼントあげるって!!
なんだよ特別なプレゼントって!」


「……キオ?」


とぼけた顔で飴を咥える悪友の名を、剣呑な響きで呼ぶ。

「俺、未だ何も貰って居ないけど……?」

「これからあげんの。」

フイとそっぽを向くキオを横目で見て、席を立つ。


「 立夏 」

「……なんだよ」

「ベランダの鍵、開けておいて」

「なんだよそれ!オレはまだ学校───」

「今夜、貰いに行くから」

電話口から立夏の困惑を感じる。
俺は口許に笑みを浮かべたまま、言葉を続けた。

「くれるんでしょ?
立夏が、俺に、プレゼント」

「何にも用意なんか……!」

「……日付が替わる前に行くから、鍵は開けておいて。
……じゃあ……こっちも授業始まるからね、切るよ?」

「……っおい!!」


一方的に電話を切って、くすくすと笑ながら中に戻る。



「……初めてキオに感謝したい気持ちだな」

「……あっそ」

「もしかしてこれがプレゼント…?」

「なワケないでしょ!?」

不貞腐れたキオを横目に笑ながら、岩絵具に手を伸ばした。











今夜、特別なプレゼントを貰いに行くから、
ベランダの鍵は開けておいて。





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