小説1

□腕の中
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深く
夜の香が為る



開け放たれた戸の向こうに浮かぶは
朱く堕ち掛けた月

鈍い光に浮かび上がる目前の肢体に指を滑らせ、焦がれた肌に幾度も唇を落とした。


大義を自ら掲げ、欺いて迄成そうと為て於き乍ら、奥底では只ひとりの無事を祈らずには居られない自分に吐き気を感じる。


「夜一サン…アタシは」


本当は、アナタさえ腕に抱いて居られれば、其れで良いんです。

言葉に出しては成らない想いを刻むようにくちづける。
抱え込んだ総てを投げ出して為まえばこの腕の全てはアナタの為に。


「莫迦者」


強い意志を湛えた瞳が射抜くように見下ろし、笑った。


「何ひとつ捨てぬお前が、これ以上何を求める?」


「…叶うなら、アナタを」


「其れならとっくに手の中だ」


まわされた腕、
其の侭肩口に頭を預け、肌から伝わる熱に目を閉じた。


「アタシの腕は、もう色んな事で手一杯なんですよ」


「だからこうして儂が抱いて遣って居る」


にやり、と夜一の口元が薄半月を描く。


「静かな刻はそう長くは続かん、今は…休め」


「…はい」


熱を持った胸元に頭を寄せて目を閉じる。
眠りは驚く程あっけなく訪れた。


「お前は一寸目を離しているとロクに睡眠もとらんからな」


ぽんぽんとあやす様に背を撫でて夜一は笑う。
その言葉を聴き乍ら、浦原は束の間の深い眠りに落ちた。




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