小説1

□灯下/透過/陶化
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カチリ と
小さな音が、微睡んだ鼓膜を振わせた。

薄く 瞼を開ける。
障子を透過し部屋を染める月の灯
足下に差込む半間からの強い月の灯


「起こしちゃいました?」


障子を半間程開け、
煙管に火を落した喜助は驚く程落ち着いた響きで灯下の夜一に微笑んで見せた。


「舐める様に見詰められては微睡みも続かん」


ごろりと寝返り肘を突く


「あんまり綺麗なんで見蕩れてたんデス」


「ふん……相変わらず気恥ずかしい事を臆面も無く」


ゾッとせんわ、とにやりと口角を上げ見詰めて来る喜助に目を細めた。


「ならばもう一度抱くか?」


「月の灯にしなる背も好きですよ」


気安い仲の戯言
永くは続かぬ安寧の夜

如何なる時も離れぬ魂を確かに腕に抱き、
甘い睦言に身を浸す。

喜助はかつり と煙管を煙草盆に返し、
その褐色の肌を抱いた。


「……喜助」


「なんスか?」


「偶には啼かせてやろうか?」


「……それは…勘弁してクダサイ」


嫌そうに眉尻を下げる喜助にくつくつと笑みをこぼし、既に一部となった匂に身を預ける。


「存外可愛い声で啼く癖にのう……」


「そんなコト云うと酷いっスよ?」


他愛の無い睦言
僅かの安寧なら尚更



「好きにしろ」




甘過ぎる戯言すら甘美


「愛してマスよ……夜一サン」

「知って居る」







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